研究概要 |
4-ヒドロキシジノウォールは、三環性のジヒドロ・β-アガロフラン骨格が多数の酸素官能基によって修飾された構造を有し、また薬剤排出トランスポーターであるP-gpの阻害活性を有する。その効率的全合成法の確立に向け、本年度前半ではまず、2位および15位の酸素官能基がない類縁体であるレイサンチンAをモデル分子として合成研究を行った。 その結果、構築に困難が予想された10位4級炭素は銅を用いた1,4-付加反応によって効率的に構築することができたものの、その基質合成のために保護基の導入など多段階を要した。またその後の変換において、上記1,4-付加反応の立体選択性発現に重要な役割を果たした9位環状アセタールの加水分解を種々検討したが、望まない脱水反応が同時に進行するのを防ぐことはできなかった。 以上の知見を基盤として、本年度後半では、新規な合成計画を立案して4-ヒドロキシジノウォールの合成研究を行った。 まず既に構築法の確立されているフェノール誘導体を酸化的に脱芳香環化することで、5位4置換炭素を効率的に構築した。続いてこの酸化によって生じたジエンとプロピオール酸メチルとのDiels-Alder反応によって、10位4級炭素の効率的な構築に成功した。本研究中で新規に見出したセシウム塩を用いる条件によって、先の酸化で構築したエポキシドを温和な条件下にて求核的に開環し、続いて5位と11位の二つのヒドロキシ基間で酸性条件下脱水縮合を行うことで、非常に酸化度の高い基質においてC環の構築に成功した。最後に4位に立体選択的にメチル基を導入することで、多くのアガロフラン骨格に共通して存在する、4,5,10位の連続4置換炭素を立体選択的に構築することに成功した。
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