本年度は、昨年度構築した4-ヒドロキシジノウォールの全合成経路を基盤として、高酸化度アガロフラン類の網羅的な類縁体合成を行う予定であった。しかし最近、所属研究室にて、より効率的に誘導体群を供給しうると考えられるアガロフラン類の新たな合成ルートが構築された。そこで予定を変更し、昨年度にその有用性を見出したフェノールの酸化的脱芳香環化と続くアルキン類とのDiels-Alder反応の一般性をさらに拡大しつつ、本研究の目的であるP-gp阻害活性天然物の合成研究を行うこととした。 アコニチンアルカロイドに属するリカコニチンは、複雑に縮環した高酸化度の6環性骨格を持ち、また強力なP-gp阻害活性も有している。その効率的全合成法の確立に向け、まずはモデル化合物としてタラチサミンを選択し、その合成研究を行なった。 タラチサミンの特異な6環性骨格のBCD環部は、ビシクロ[2.2.2]オクタン骨格からの転位反応によって生合成されると予想されている。そこで、そのような反応を鍵反応として合成終盤に用いることとし、必要なビシクロ[2.2.2]オクタン骨格をフェノールの酸化的脱芳香環化と続くDiels-Alder反応によって構築する合成計画を立案した。 実際の合成ではまず、市販化合物から1工程で導いた既知のケトンより、マンニッヒ反応などを用いて標的のAE環部に対応するアザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を得た。続いてFleming-Tamao酸化によって1位酸素官能基を、またKeckラジカルアリル化によって5位炭素鎖を、それぞれ立体選択的に導入した。最後に、アリル基末端の1炭素を除去した後、付加反応によって芳香環部位を連結した。これにより、既知化合物から計13工程にて、4つの連続する不斉点を持つAE環部に芳香環が連結された化合物を得た。今後鍵反応に付すことで、タラチサミンの全合成が達成できると考えられる。
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