研究課題/領域番号 |
12J10400
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 絵里子 東京大学, 分子細胞生物学研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | RNAi / Dicer-2 / Ago2 / ショウジョウバエ / hsp70 / ncRNA |
研究概要 |
RNAi経路ではsiRNAが標的mRNAを切断、分解する。ショウジョウバエにおいて、siRNAはDicer-2によって産生された後、Argonaute2(Ago2)を核とするRISCと呼ばれる複合体を形成し、標的mRNAを切断する。これまでに申請者は、環境ストレス応答の一例として熱ショック応答を取り上げ、その応答機構のうち、hsp70 mRNA分解機構に着目し、研究を行ってきた。その過程で、インシュレーターscs'由来long ncRNA(non-coding RNA)がDicer-2のdicing活性を阻害することを示唆し、熱ショック時にRNAi経路が抑制される可能性を見出した。外的刺激によるDicer-2機能の制御やncRNAによるDicer-2機能の阻害については、これまでに全く知見がなく、その詳細なメカニズムは未知である。そこで、熱ショックによるscs'ncRNAのDicer-2機能阻害メカニズム解明を本研究の目的とした。具体的にはscs'ncRNAによるDicer-2dicing活性及びRISC形成への阻害様式解明とin vivoにおけるscs'ncRNAのsiRNA標的mRNAの安定性に対する影響を検討する。特に平成24年度は、in vivoにおけるscs'ncRNA機能的重要性を評価するため、scs'ncRNA欠損変異体ショウジョウバエの作出に注力した。しかしながら、ショウジョウバエ遺伝子欠損変異体作出の一般的方法であるP因子欠損方法では遺伝子変異体が取得できず、現在、新規方法であるTALEN法を用いた遺伝子欠損変異体作成に取り組んでいる。TALEN法でのショウジョウバエ遺伝子欠損作成は、世界的に報告例が少なく、いまだに発展途上である。TALEN法による効率的なショウジョウバエ遺伝子欠損作出系の確立は、ショウジョウバエ遺伝学において、.有効な手段となりうると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、in vitroでのSCS'ncRNAによるDicer-2機能阻害メカニズムの解明を第一に考えていた。しかし、SCS'ncRNAの生体内での重要性を主張するには、in vivoでの解析が必須と考え、取得に時間のかかるSCS'ncRNA欠損変異体の作出を最優先にした。その結果、従来の手法では、遺伝子欠損変異体が取得できず、まったく新規の手法(TALEN法)を試みることとなった。そのため、系の構築に時間がかかっており、当初の計画よりも遅れている状態である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後もSCS'ncRNA欠損変異体の作出のため、TALEN法の構築を進める。また、同時並行で、新たなテーマに取り組んでいる。microRNA(miRNA)はsiRNAと同様に、Agoタンパク質を介して相補的な配列を持つ標的mRNA分子に結合し、標的mRNAの発現を調節している。miRNA,siRNAともにガイド鎖の5'末端から2-8塩基の7塩基(seed領域)に相補的な配列をもつmRNAを標的とする。しかし、近年、siRNAはseed領域だけではなくsiRNAの中間部分(3'supplementaryregion)と標的mRNAの相補性が標的認識に寄与することが報告された。一方、miRNAの標的認識機構については、seed領域以外知見がないため、私はin vitro系を利用し、miRNA結合ショウジョウバエAgolに結合する標的皿RNAの網羅的解析に着手し、miRNA標的認識機構解明を目指している。同時に、miRNAとsiRNAとの標的認識機構の差を見出すために、siRNA結合ショウジョウバエAgo2についても同様の解析を行っている。
|