研究概要 |
研究代表者はイネの収量・バイオマス生産向上に関わる生理的および遺伝的要因の解明を目指して研究を行っている。平成24年度は、生育初期におけるバイオマス生産にとって重要な葉のサイズに関わる量的形質遺伝子座(QTL)の同定と、全生育期間を通じて重要となる葉の光合成能力に関わる遺伝子の特定およびその機能解明を目的として研究を行った。その結果、前者についてはコシヒカリ/Nabaの染色体断片置換系統を用いることによって、葉幅を制御するQTLを第3,6,8染色体に、葉長を制御するQTLを第3,6,11染色体に見出した。後者についてはコシヒカリ/ハバタキの交雑後代を用いることによって、光合成能力を高める染色体領域を第8染色体および第11染色体のそれぞれ11kb、27kbの領域に絞り込んだ。また第8染色体上の遺伝子は気孔伝導度を高める作用、第11染色体上の遺伝子は葉身窒素含量を高める作用をそれぞれ有しており、このことが光合成速度を高めているもの推察された。さらに第8染色体の原因遺伝子はイネの開花調節に関わるDTH8(Wei et al. 2010)である可能性が示唆された。光合成能力を制御する遺伝子の実態に迫る本研究成果は、これまで難しいとされてきた光合成能力の育種的改良に道を拓くものである。また本結果は、過去に多くの研究者が挑戦したもののいまだ統一的な見解が得られていないイネの光合成能力を制御する遺伝的メカニズムの解明に、大きく近づいたという点からも重要であると考えられる。この遺伝的メカニズムを詳細に明らかにすることによって、イネ光合成能力をさらに大幅に改良するための研究戦略の構築につながるものと考えられる。
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