研究課題/領域番号 |
12J10483
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 雄大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 潮汐混合モデリング / ベーリング海陸棚縁辺 / グリーンベルト / グライダー観測 |
研究概要 |
高生物生産帯であるベーリング海陸棚斜面域周辺を対象に、励起される内部波によるエネルギー散逸量の定量化やその内部波の伝播・散逸過程の解析を行った。その結果、モデルから得られたエネルギー散逸は、陸棚底層や斜面域亜表層~表層で強く、これまで我々が観測から示唆した表層での生物生産維持に寄与する乱流構造が数値モデルでも再現する事ができた。この強いエネルギー散逸には、(1)地形に捕捉されて斜面に沿って伝播する日周期内部潮汐波が、陸棚縁辺付近底層での散逸を強化する事に加え、(2)斜面域で励起された自由伝播する半日周期内部潮汐波が、斜面亜表層~表層での散逸を強化する事が示唆され、日周期および半日周期の2つの異なる性質を持った内部波がともに、表層への栄養塩輸送に寄与しうる可能性を示した。従来斜面域での混合で重要と考えられてきた日周期の内部潮汐の他に、半日周期の内部潮汐が栄養塩輸送や生物生産に寄与しうるという新しい見解を得た。 観測面では、4月中に、日本で初めてとなる乱流計付きグライダーの試験観測を館山沖で開始し、同月の相模湾周辺沖での淡青丸航海(KT12-05)においても、約1日半の連続観測を実施した。Nasmythスペクトルに良く合うプロファイルが概ね取得されており、十分な精度を持った観測ができる事を確認した。6月には、おしょろ丸北洋航海に乗船し、乱流計VMP500を用いた陸棚縁辺周辺での1日乱流繰り返し観測を実施した。陸棚縁辺沖の観測点では、60m深前後に1日2回、10×10^<->4(m2/s)程度の拡散係数、10^<-8>~10^<-7>W/kg程度のエネルギー散逸率を観測し、モデル結果と同程度の散逸率を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベーリング海陸棚斜面域周辺を対象とした潮汐計算を開始し、これまでの乱流観測結果を再現するエネルギー散逸率分布を得る事ができた。加えて、従来斜面域で重要視されてきた日周期の内部波のほか、半日周期の内部波の関与を示唆する新しい結果を得た。これらの結果は、国内学会などで発表し、現在学術論文として投稿準備中である。また、観測面では、日本初となる海洋グライダーによる乱流観測を開始し、十分な精度で観測ができる事を確認した。研究対象海域であるベーリング海での乱流1日繰り返し観測は、浸水により、期間の一部しかデータを取れなかったが、乱流計VMP500で別途観測したデータを用いて、モデル結果との比較をこれらから行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
6月に取得した乱流計VMP500による乱流データを用いて、これまで行ってきた数値計算結果との比較を行う。特に、陸棚斜面域での高い生物生産の維持に寄与すると考えられる陸棚底層および陸棚縁辺沖表層~亜表層での乱流時空間変動に焦点を当てる。また、同時観測したADCPによる流速データも用いて乱流強度との対応についても解析してゆく予定である。
|