研究課題/領域番号 |
12J10484
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野田 博文 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 活動銀河核 / 大質量ブラックホール / ASTRO-H / X線天文学 |
研究概要 |
1.「すざく」による活動銀河核(AGN)のX線放射の観測的研究 私は、「すざく」のアーカイブに含まれている~200個のAGNデータに対して、Noda et al.(2011b)で自ら開発した時間変動からX線スペクトルを成分に分解する手法を系統的に適用した。その結果、AGNの0.5-3keV帯域には一般に、激しく変動する一次X線成分とは独立に変動する、別の一次コンプトン成分が存在することを突き止めた。この新たなコンプトン成分は、温度が低く光学的に厚い(電子温度~0.5keV、光学的厚み-15)コロナにおいて生じることでソフトな形を持っており、AGNのX線スペクトルに一般に存在し長年起源が謎であった「軟X線超過成分」の正体であったことが明らかになった(Noda et al.2013)。 同様の手法を今度はAGNの3-45keV帯域に適用したところ、ここでも成分を分解することに成功した。その結果、これまで知られていた激しく変動する一次成分と二次成分の他に、Noda et al.(2011a)で発見した成分に形が似ているハードな成分が、多くのAGNに一般に存在していることが明らかになった。これらの軟X線および硬X線帯域の研究により、これまで考えられてきた1領域のX線生成機構ではAGNの実際のスペクトルを時間変動まで含めて説明できず、少なくとも3つ以上の独立な領域で一次X線が生成されていることが明らかになった。 2.次期X線天文衛星ASTRO-H搭載の硬X線帯域用検出器の熱設計 衛星全体の熱真空試験において、硬X線帯域用の検出器の熱伝導および輻射特性を模擬した検出器の熱的ダミーの設計を主導し、衛星全体を担当する企業へ提出した。筑波のJAXAにある直径13mの真空チャンバを用い、軌道上の熱環境を模擬した実際の試験にも参加し、検出器ダミーの温度変化をリアルタイムで確認し、熱設計の妥当性をその場で検証した。さらに、私の構築した熱数学モデルを衛星全体のものに取り込み、全体の温度シミュレーションの中で、軌道上の検出器の温度が予想通りになっていることを確認した。これらのことから、硬X線帯域の検出の熱設計の妥当性を大型真空実験とシミュレーションの両面から検証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請の段階で考えていた軟X線帯域の結果のみならず、硬X線帯域においても複数の一次成分を発見し、複数コンプトン描像の確かさがより強まったため。
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今後の研究の推進方策 |
多くのAGNの軟X線帯域および硬X線帯域で新たに見つかったコンプトン成分の形から、それぞれを放射している高温電子雲の物理パラメータを定量化する。また、それぞれのコンプトン成分の変動のタイムスケールを調べることで、ブラックホールから高温電子雲までの距離に制限をつける。
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