研究課題
文化財は非破壊調査を原則とすることからサンプルはごくわずかな量しか得られない場合が多い。本研究では、これまでに申請者が確立した超微量試料からの定性・定量手法を用いて、文化財中に存在するカビ・キノコなどの糸状菌を超微量試料から特定し、さらにこれらの菌の量比について明らかにして、これらの結果から文化財と加害する菌について検討を行い文化財の保護に役立てることを目的とした。研究方法は以下の項目の通り実験方法を設定し、本研究の遂行にあたっては下線部分をより深めることを計画した。(1)文化財から超微量試料のサンプリング、(2)Phi29 DNAポリメラーゼによる非特異的増幅、(3)PCR→ターゲットとする遺伝子の検討、(4)次世代シーケンス解析→新技術の導入、(5)定性、定量→加害菌の検討初年度は、(3)では、モデル実験系においてハウスキーピング遺伝子や糖質加水分解酵素遺伝子などについて検討を行い、特定の遺伝子配列を用いることで定量解析や菌の特性を反映した分類ができる可能性について示した。本内容は第28回日本木材保存協会年次大会において発表した。(4)では、本年度歴史的建造物から得た試料について次世代シーケンスによる解析を行った。銅板の有無の違いによる菌の繁殖抑制効果について現在解析を進めている。(5)では、文化財試料中に存在する菌について定性を行った結果を考察し、津波被災掛軸については保存科学52の報告で、津波被災文書については文化財保存修復学会第34回大会で発表を行った。また、上述のように原因となる菌が特定できた場合は菌の加害メカニズムに基づいて適切な対処を行うことが可能になると考えられる。この考えに基づき壁画の汚損原因菌への対処法の一つとして提案したものについて検討を行った結果を、保存科学52の論文、第12回糸状菌分子生物学コンファレンス、International Symposium on the Conservation and Restoration of Cultural Property 2012において発表した。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した年次計画で本研究は(1)ターゲットする遺伝子の検討、(2)次世代シーケンス技術の導入、(3)文化財を加害する菌についての検討を行うことを示した。初年度はそれぞれの項目を行い、成果が示されつつあることから、おおむね順調に進展している状態と判断した。
9.の(3)の項目について初年度はリボソーマルRNA遺伝子のみにターゲットを絞り解析を行ったが、本年度以降は上記の遺伝子が文化財試料に適用可能であるかについて検討することを予定している。(4)の項目について初年度次世代シーケンスによる解析を行い、現在銅板の有無の違いによる菌の繁殖抑制効果について現在解析を進めている。銅板の有無の違いによる菌叢の違いについては今年度国際学会において発表することを予定している。(5)の項目について今年度以降は定量性についての議論が可能となるような手法の導入の検討を予定している。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件)
紙パ技協誌
巻: 26(9) ページ: 57-65
保存科学
巻: 52 ページ: 149-158
巻: 52 ページ: 11-26