研究課題
文化財は非破壊調査を原則とすることからサンプルはごくわずかな量しか得られない場合が多い。本研究では、これまでに申請者が確立した超微量試料からの定性・定量手法を用いて、文化財中に存在するカビ・キノコなどの糸状菌を超微量試料から特定し、さらにこれらの菌の量比について明らかにして、これらの結果から文化財と加害する菌について検討を行い文化財の保護に役立てることを目的とした。研究方法は以下の項目の通り実験方法を設定し、本研究の遂行にあたっては下線部分をより深めることを計画した。(1)文化財から超微量試料のサンプリング、(2)Phi29 DNAポリメラーゼによる非特異的増幅、(3)PCR→ターゲットとする遺伝子の検討、(4)次世代シーケンス解析→新技術の導入、(5)定性、定量→加害菌の検討当該年度は(3)では、米国・クラーク大学のDavid Hibbett教授の研究室に留学し、共同研究でハウスキーピング遺伝子や糖質加水分解酵素遺伝子などを用いて検討を行い、特定の遺伝子配列を用いることで定量解析や菌の特性を反映した分類ができる可能性について示した。(4)では、昨年度歴史的建造物から得た試料について次世代シーケンスによる解析を行い、銅板の有無の違いによる菌の繁殖抑制効果や培養法と非培養法で検出された菌の違い、銅耐性菌についてまとめ、これらの内容は第64回日本木材学会大会、The 44th Annual Meeting of International Research Group on Wood Protection、第13回糸状菌分子生物学コンファレンス、第64回日本木材学会大会で発表した他、保存科学誌に一報掲載された。(5)では、文化財試料のみならず木造住宅などの木材試料も対象として試料中に存在する菌について定性を行った結果をまとめ、第29回日本木材保存協会年次大会で発表した他、木材保存誌に査読付論文に二報、資料に一報掲載された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は4件の学会発表、3件の査読付論文発表を行った。さらに昨年度から、国内における所定の実験作業を着実に継続実施する以外に、自身の研究をより深めるためトルコ・イスタンブール大学(イェニカプで出土した木造沈没船に関する研究)、米国・クラーク大学(糖質加水分解酵素遺伝子配列に関する研究)にコンタクトを取り、共同研究を立ち上げた。貴重な文化財を保存するという目的の達成のため意欲的に研究に取り組んでいることから、おおむね順調に進展している状態と判断した。
9,の(3)の項目について、特定の糖質加水分解酵素遺伝子配列を用いることで定量解析や菌の特性を反映した分類ができる可能性について示し、今年度はその分類方法を確立する予定である。(4)の項目については、歴史的建造物由来の試料から単離された銅耐性菌についてさらなる性状解析を行うことを予定している。(5)の項目については、今年度はトルコ・イスタンブール大学のS. Nami Kartal教授、Coskun Köse准教授らとの共同研究で調査した結果についてまとめ、歴史試料を加害する菌について総括することを予定している。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件)
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