研究課題/領域番号 |
12J10515
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宇賀神 篤 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 高温情報処理 / 熱殺蜂球形成行動 / 初期応答遺伝子 |
研究概要 |
1.高温城におけるキノコ体の温度撰択的応答性の種間比較 キノコ体の温度選択的応答性を詳細に検証する目的で40℃から48℃まで2℃刻みでニホンミツバチを高温曝露し、初期応答遺伝子Ack5のキノコ体における発現変動を定量的RT-PCR法により解析した。併せて、熱殺蜂球を形成しないセイヨウミツバチとの種間比較も行った。三回の実験から、いずれの種においても44℃前後で初期応答遺伝子の発現上昇が生じることが明らかとなり、キノコ体の高温域における温度選択的応答性は2種のミツバチにおいて共通であることが強く示唆された。 2.脳への簡便な薬剤投与実験系の確立 キノコ体の温度選択的応答性の熱殺蜂球形成行動への寄与を検討するため、高温曝露時の神経活動に影響を与える薬剤の検索・利用を企図した。まず、(1)薬剤の脳への投与が容易となるよう頭部の確実な固定・拘束、(2)投与後の行動実験が可能となるよう自由行動条件下への速やかな復帰、以上2点を満たす簡便な実験系として、コルク板とホチキスの針を用いた拘束手法を考案した。本法の有効性を検証するため、固定・拘束後麻酔から回復させたセイヨウミツバチに、500pMのピクロトキシン(PTX)1μlを中心単眼よりガラスキャピラリを用いて投与し、自由行動条件下で30分間放置した後キノコ体を摘出した。PTXはGABAA受容体のアンタゴニストであり、脊椎動物の初期応答遺伝子の多くがPTX処理により発現上昇することが知られている。kakuseiの発現量を定量的RT-PCR法により解析したところ、リンガー投与群に比べてPTX投与群で有意に発現が上昇していた。このことから、脳への薬剤投与実験において本法が有効であることが確認された。また、昆虫の初期応答遺伝子の発現がGABA受容体の阻害によって上昇するということ自体が初の知見であり、今後の昆虫を用いた神経行動学研究の進展において重要な成果であると考えている。 3.高温応答性TRPチャネルの解析 ショウジョウバエで42℃以上の高温に応答性を有するTRPチャネルとして知られるPainlesssのホモログをニホンミツバチとセイヨウミツバチからクローニングし、翻訳産物を比較した。その結果、ニホンミツバチでN末端側に5残基のアミノ酸挿入が見られた。他のハチ目昆虫と比較したところ、この5アミノ酸挿入はニホンミツバチにのみ存在することがわかった。現在温度閾値の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニホンミツバチにおいて熱殺蜂球形成時に温度モニタリングを可能にする機構が存在すると考え、初期応答遺伝子による活動脳領域マッピングから、神経機構として高次中枢であるキノコ体のクラスIIケニヨン細胞を、また分子機構として高温応答性TRPチャネルをそれぞれ候補として解析を進めている。これまでにキノコ体の高温応答性を詳細に解析し、TRPチャネルについてはニホンミツバチ特異的なアミノ酸挿入が存在することを見出した。当初の計画では、培養細胞を用いた電気生理学的解析から温度閾値の決定まで完了させる予定となっていたが、安定した発現系の確立に時間がかかり、間に合わなかった。一方で、新規な薬理学実験系の確立という成果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
高温応答性TRPチャネルの解析に関しては、安定発現系の確立ができたため、今後電気生理学的解析により様々な性質を明らかにできるものと考える。また、新たに確立した薬理学実験の系を用いて、キノコ体の高温応答性を阻害する薬剤の探索を行い、実際に投与したミツバチでの蜂球形成行動への影響を評価することで、高温情報処理の神経機構に迫れるものと考えている。
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