本研究の目的は、清末の中独関係にみられた協調関係が、辛亥革命およびその後の中国の政治情勢や第一次世界大戦の勃発、中国の対独断交という中国国内および国際情勢の変化を受けてどのように変容していったのかを検討することにある。それにより、不平等条約により特徴づけられてきた中国と列強との関係の再検討を試みてきた。本年度は清朝滅亡後から第一次世界大戦勃発後までを対象に、関税率改正交渉と大戦勃発後のドイツの東アジア政策を分析した。 8月に上海図書館において1930年の関税自主権回復前後に出版された関税政策関連の書籍を、ドイツの連邦文書館において北京政府期の通商条約改正に関する史料を中心に調査収集を行った。 それらの史料を分析し、史学会大会の東洋史部会において、関税問題をめぐる中独関係を清末から大戦勃発までを対象に報告を行い、ドイツが1910年以降この問題に対して協調的であったことを確認した。また、『東アジア近代史』に寄稿した論文では、そのような通商問題にみられたドイツの対中協調姿勢が、第一次世界大戦勃発とそれが東アジアに波及する中で、在華ドイツ人の保護や在華権益維持のために対中依存へと変化し、ドイツが中立国である中国の協力を必要としたことを指摘した。大戦中の状況が両国間の力関係を逆転させ、中国が山東権益の回収を目指し協商国に接近していく中で、ドイツは中国を中立に止めておくことができなくなり、最終的に1917年3月の中国による対独断交に至った。 以上の検討は、中独関係が不平等条約や能動者=列強、受動者=中国という構図では捉えられなくなったことを示している。 ただし、当初予定していた善後借款に関して本格的に分析するまでには至らなかった。今後は、この問題を検討し、通商問題における両国関係の特徴を把握した上で、政治問題なども加えて、両国関係の全体像をより立体的に分析することが必要となってくる。
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