研究課題/領域番号 |
12J10541
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菅野 早紀 東京大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 自殺 / Poisson Regression / 自殺対策 / 金融危機 |
研究概要 |
今年度の研究は(1)1998年から2000年代にかけて我が国で起こった自殺の急増と高止まりが1997年・1998年の金融危機とどのような関係があったかを明らかにすることと、(2)市区町村レベルのデータを用いて自殺の社会経済的要因を明らかにすることであった。 (1)については昨年度から引き続き行っている研究である。97年から98年にかけての自殺者の急増が金融危機と大きく関わっていて、特に自営業者、中高年男性の自殺を増やしたことが明らかとなった。今年度はこの研究結果を2つの研究会、ワークショップで発表し、国際学術雑誌に投稿した。 (2)近年の自殺問題の高まりに応じて内閣府は平成21年度から市区町村別の自殺者数のデータを公開するようになった(それまでは都道府県レベルのみ)。このデータを用いて、自殺者数と社会経済的要因の関係を明らかにした。同一県内においても市区町村により自殺者数はもとより、人口構成、経済状況、治安、自然環境、公共サービス、病院へのアクセス等は大きく違う。市区町村別のデータが利用できるようになったことにより、これらをコントロールした分析が可能となった。また、市区町村レベルの自殺者数は整数のcount dataであり、年間自殺者数ゼロの市区町村が30%をしめ、半数の市区町村では自殺者数が5人以下で右の裾野が広いといった左側に偏った分布となっている。そのようなデータにより適切な Poisson regressionおよびNegative Binominalを導入した。これらの手法は自殺と同じく件数がcountableでそれほど多くない犯罪の分析等で使われてきたが、市区町村の自殺データに対して使ったものはこの論文が初めてである。従来のOLS regressionの結果と比較してより現実を説明する結果となった。特に、失業率、離婚率が高い地域ほど自殺が多いこと、精神科・一般病院へのアクセスが自殺者数減少の一助となっていること、その効果が特に30代の男性に顕著であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記9の「(2)市区町村レベルのデータを用いて自殺の社会経済的要因を明らかにする」という研究は、交付申請書提出後に発案し行った。そのため交付申請書に記した「若者の自殺問題」の研究成果を今年度中に完成させることができなかった。しかし、(2)の研究の際に市区町村レベルの年代別の自殺者数データも収集したので来年度以降「若者の自殺問題」に取り組む足がかりとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策は以下の3点である。(1)「若者の自殺問題」(2)「市区町村データを用いた自殺対策の効果推定」(3)地域レベルの経済状況の分散についての研究を行う。 (1)は日本において1998年以降、20代30代の若者の自殺の増加が問題になっているが、それが若者の雇用環境とどうリンクしているかを明らかにしたい。(2)は自治体毎に行われている自殺対策の取り組みおよび自殺対策予算のデータを収集し、今年度収集した市区町村別自殺データと合わせて分析を行う。(3)は今年度、市区町村レベルの自殺者数のばらつきが大きいこと、そしてそれが地域の経済状況と深く関わりがあることが明らかとなったことより、地域間の経済状況のばらつきがどうして起こっているのかを明らかにしたいと発案した。
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