研究課題
動的な環境下で適切に情報処理を行う脳の機能・機構の解明は、これまで神経科学、生物学、認知心理学、ロボット工学など、多岐の分野にわたる目標であった。本研究は、生物脳をコントローラ転用した移動ロボットである「脳-機械融合システム」を用いることで、この課題に正面から取り組むものである。対象とする生物機能として、雄カイコガの匂い源定位行動を選択し、探索行動中のターン歩行を指令する神経活動を計測し、得られた信号を独立二輪駆動ロボットの運動に変換し、匂い源探索タスクを行わせた。生物身体を移動ロボットに置き換えていることを利用し、回転角速度の外乱付加や設定回転角速度の倍化といった操作を加えたときの指令信号の変化を調べた。その結果、匂い源探索中の視覚的な感覚フィードバックにより、指令信号の修飾が起こることを確認した。また、指令信号の修飾による一定範囲の回転角速度の維持が、効率的な匂い源探索を実現していることを、シミュレーション実験、ガスセンサを搭載したロボットを用いた実機実験により検証した。これら一連の成果は、Journal of Comparative Physiology A誌やLiving Machine 2013, IROS2013において発表された。さらに、行動指令信号の生成領域における修飾機構を調べるために、匂い源探索中のカイコガ脳内に埋め込み電極を刺入することで、歩行運動とそのときのダイナミックな脳内の神経活動の計測に成功した。同様の計測を融合システム上でも行うことで、運動系に人為的な操作を加えた時の、脳への入力刺激と行動出力の関係から、脳-身体間の制御システム構造の同定を行い、対応した神経機構の解明までを目指す。
2: おおむね順調に進展している
融合システムにおいて示唆された匂い源探索行動パラメタ補正の、匂い源定位への奇与を横証するシミュレーション、実機による実験系を構築した。また、探索行動中のカイコガの脳内部の神経活動の計測を可能とする、本研究達成のための重要な実験系を構築した。脳内の神経活動の計測については融合システム上においても可能であったが、脳内部の構造に基づく機能解析は不十分であり、脳内での行動アルゴリズムの背景にある制御ブロック構造の仮説が立てられる段階までは達していない。
脳内部での情報処理についての理解を進めるためにm脳の複数領域においてさらなる活動計測を行い、機能・構造両方の面からの解釈を行う。脳内部情報処理に関する神経活動計測は、実験動物の行動計測、あるいは脳の出力部位である運動神経の活動計測と同時に行う。得られたデータから視覚フィードバックによる修飾を受ける匂い源探索行動アルゴリズムを構築する。アルゴリズムの検証実験は、既に構築した仮想環境内での探索シミュレーション・実験風洞内でのガスセンサ搭載ロボットにより行い、成果をまとめる。
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Proceedings of the National Academy of Sciences of USA
巻: 110(38) ページ: 15455-60
10.1073/pnas.1313707110
Journal of Comparative Physiology A
巻: 199(10) ページ: 1037-52
10.1007/sOO359-013-0832-8
http://www.irs.ctrl.titech.ac.jp/