ポリインとヨウ素から成る新しい分子錯体についてその幾何構造を解明し、無極性溶媒中においてヨウ素が三ヨウ化物構造をとることの可能性を実験的に明らかにすることを目的として研究を行った。具体的には、本研究において用いるポリイン分子の生成をより効率的にするため、昨年度構築した高速液体クロマトグラフィーシステム専用の小型分光器を新規に購入し、これを取り付けることで本研究専用のポリイン分子大量分取用高速液体クロマトグラフィーシステムを完成した。これにより、既存の分光器のマシンタイムにとらわれることなくポリイン分子の分取を行うことが出来るようになり、本研究の試料作製を滞りなく推進できるようになった。 前年度までの実験研究によって、ポリインーヨウ素錯体の分子構造として、錯体中のヨウ素が三ヨウ化物構造をとる可能性とポリインにヨウ素が付加した構造を取っている可能性が示唆されている。そこで、ポリインーヨウ素錯体中のポリインとヨウ素の相対的な位置関係を明らかにすることを目指し、分子のクーロン爆発によって生成するフラグメントイオンの3次元運動量分布測定実験を、日本原子力研究開発機構との共同研究として行った。本年度は、クーロン爆発を利用したポリインーヨウ素錯体の分子構造の同定に先立ち、分子のクーロン爆発を利用した構造解析が可能であるかを検証するため、より簡単な分子であるジクロロエチレンの幾何異性体を用いた実験を行い、3次元運動量分布測定によってそれぞれの異性体の区別が可能であるか検証した。 以上、ポリイン分子試料の生成分離効率の向上および分子のクーロン爆発を利用した分子構造の同定法の開発は、ポリインーヨウ素錯体の分子構造を解明するための基盤技術として価値の高い研究であるとともに、分光研究のみならず、従来の分子構造同定法では測定できない試料に用いることができる新規な分子構造解析法にも応用可能な機能的側面を持つ。
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