研究課題/領域番号 |
12J10623
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂下 渉 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 太陽活動 / 気候変動 / 樹木年輪同位体 |
研究概要 |
高精度の気候変動の将来予測には、太陽活動と気候変動の関係を明らかにすることが必須であり、その詳細の理解には、太陽活動の高時間分解能データと古気候記録との比較が必要である。これまでの申請者らの研究により、小氷期に起こったマウンダー極小期(A.D.1645-1715)と呼ばれる太陽活動極小期に、太陽磁場の周期長に同期する気候変動が中部日本と北日本で起こっていたことが明らかになった。特異な太陽活動時期はマウンダー極小期以外にもダルトン極小期(A.D,1790-1820)などが報告されており、他の特異な太陽活動時期についても研究を進めることで、太陽磁場活動と気候変動との関係に関するメカニズムの解明を目的とする。 樹木年輪の放射性炭素濃度は過去の太陽磁場を、樹木年輪セルロースの酸素同位体比は古気候を復元できることから、申請者はそれぞれの単年復元データを直接比較することで、太陽磁場と気候変動の関係を明らかにするという手法を用いている。本研究では、前述した目的を達成するために、本手法を台湾:阿里山の紅ヒノキ試料(A.D.870-1900)と三重県伊勢神宮のスギ試料(A.D.1517-1959)に応用した。 まず、2012年1月に東京工業大学に導入された熱分解型元素分析/同位体比質量分析計の立ち上げを行い、その後、化学処理により抽出された樹木年輪セルロース中の酸素同位体比を測定した。これまでの測定により、阿里山ではADI600-1900の約300年、伊勢神宮ではAD1600-1959の約360年の樹木年輪セルロースの酸素同位体比データが得られた。本研究の成果から、中部日本ではダルトン極小期を含むA.D.1770-1860の期間が過去400年間で相対的に最も湿潤であったこと、台湾でもダルトン極小期の時期に相対的に湿潤であったことなどが明らかになってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱分解型元素分析/同位体比質量分析計の立ち上げに想定以上に時間を要したため、国際誌に論文を投稿することができなかったものの、計800年近くの膨大な樹木年輪セルロース中の酸素同位体比データを得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでに得られた樹木年輪セルロース中の酸素同位体比データをもとに、その成果を国際誌に論文を投稿する。そして、引き続き樹木年輪の酸素同位体比を測定し、シュペーラー極小期(A.D.1416-1534)などさらに他の太陽活動極小期の太陽磁場活動と気候変動との関係に関する議論を行っていく。また、太陽磁場活動と気候変動のメカニズム解明のため、樹木年輪を用いた手法にとどまらず、気候モデルの研究を合わせて行っていくことで、どのような気候プロセスで太陽磁場変動が気候に影響を与え得るのか議論を行っていく予定である。
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