研究概要 |
<研究の目的> 本研究の目的は,この蝸牛遅延特性を活用し,蝸牛から脳幹に至るまでの聴覚末梢系における情報処理メカニズムの全体像明らかにすることである.また,それらの結果を用いて検出の容易な警報音の開発を行うことで,工場など重機が作動する際に発せられる警報音を,音圧レベルを抑えたままでも検出可能な音に加工し,労働者の難聴リスクを低減する. <本年度の研究成果> (1)当初の計画に則り,心理実験1【同時性の知覚精度推定】を実施した.その結果,聴覚システムは低音域の遅延に対してのみ同時性の知覚精度が低いことが再確認され,その高音域に対する遅延が約40msであったしても,約10msの遅延との区別がつきにくいことが新たに明らかになった. (2)また,その過程で心理実験Ia【同時性の知覚精度推定に対する日常的な聴取訓練の影響】を追加した.その結果,楽器演奏などに伴う日常的な注意深い聴取訓練が,同時生判断の精度の向上を向上させることが明らかになった.さらに,蝸牛遅延による時間的な情報の崩れの処理に関わるようなシステムとは別の段階で生じている可能性が示唆された. (3)企業からの依頼により,第3年度目に計画していた【警報音への応用】に関連する心理実験IIaを先行して実施した.その結果,先行研究において分離しやすい音であることが示されていた蝸牛遅延を増長するようなパルスで生成した警報音が,最もホワイトノイズから検出されやすいことが明らかになった,また,不快感と主観的な大きさについても心理実験IIbを実施した結果,ノイズからの検出のしやすさと,主観的な音の大きさの評価は大きく異なることや,主観的な音の大きさと主観的な音の快さは評価が逆であり,大きな音は不快であると判断されやすいことが明らかになった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり,聴覚システムが低音域の遅延に関して時間分解能が低いことに加え,その具体的な精度について明らかにすることができた.加えて,聴取訓練の効果についても検証を行い,その影響は蝸牛遅延には及ばないことを明らかにした. また,警報音への応用は,最終年度に予定されていたが,企業からの依頼を受けたことから,同時生判断の知覚内容を検証する実験に替えて,聞き取りやすい警報音開発のための心理実験を今年度に繰り上げて実施した.従って,当初の計画と順番に入れ替わりは生じたが,特に遅れ等は生じておらず,順調に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度,繰り上げて行った聞き取りやすい警報音の開発に関連する心理実験を引き続き継続する.また,その上で今年度に予定していた同時生判断の知覚内容を検証する実験も実施する.また,当初の計画通り,聴覚抹消モデルを用いて蝸牛基底膜の振動をシミュレートする.この際に使用する聴覚抹消モデルは,蝸牛基底膜の物理特性を反映した物理モデルを使用する.
|