研究課題
我々は二本鎖RNA結合蛋白質Nuclear Factor 90 (NF90)及びその結合パートナーであるNF45の複合体(NF90-NF45)による癌抑制miRNAの生合成制御を介した腫瘍化調節機構の解明を目的とし、研究を進めている。前年度までの解析結果から、肝細胞癌細胞株においてNF90のノックダウンにより癌抑制miRNAの一つであるmiR-7の産生が増加し、miR-7の前駆体(pri-miR-7-1)の量が減少することが明らかとなっていた。そこで本年度では、NF90-NF45の安定発現株を作出しmiR-7及びpri-miR-7-1の産生への影響を検討した。その結果、NF90-NF45の過剰発現によりmiR-7の産生が減少し、pri-miR-7-1が蓄積することを見出した。さらにRNAゲルシフトアッセイにより、NF90-NF45がpri-miR-7-1に直接結合することを明らかとした。これらの結果より、NF90-NF45はpri-miR-7-1に結合しそのプロセッシングを抑制することでmiR-7の生合成を負に制御することが分かった。miR-7は上皮成長因子受容体(EGFR)を標的としてその発現を減少させ、下流のAktシグナリングを低下させることで細胞増殖を抑制することが知られている。加えて我々の以前の研究から、NF90のノックダウンにより細胞増殖が著しく抑制されることが明らかとなっている。そこでNF90-NF45によるEGFRの発現及びAktシグナリングへの影響を解析した。その結果、NF90またはNF45のノックダウンによりEGFRの発現が有意に減少し、Aktシグナリングも低下することを見出した。本年度の研究から、肝細胞癌においてNF90-NF45がmiR-7の生合成抑制を介してEGERの発現を増加させることで細胞増殖を正に制御することを示す重要な成果を得ることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
研究計画書の第二段階として記載している「NF90-NF45によるmiRNA生合成阻害を介した細胞腫瘍化機構の解明」を目指した解析は計画通り進行している。今年度の研究で得られた成果は学術集会において発表した。現在、本研究成果の学術雑誌への投稿を目指し論文執筆中である。
平成25年度までの研究成果より、肝細胞癌細胞株においてNF90-NF45がmiR-7の生合成を制御することで、その標的であるEGFRの発現が変動し、細胞増殖が調節されることを見出した。これらのメカニズムが個体レベルでも働くかを検証するため、免疫不全マウスを用いた異種移植実験を行なう。本年度に作出したNF90-NF45安定発現株を免疫不全マウスに移植し、NF90-NF45による腫瘍形成能への影響を個体レベルで明らかにする予定である。またWounds healing assayやInvasion assayを合わせて行うことで腫瘍細胞の遊走能、浸潤能に対するNF90-NF45の役割を明らかにする予定である。
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Journal of Gastroenterology
10.1007/s00535-013-0852-8