研究課題/領域番号 |
12J10675
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金澤 尊 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員DC2
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キーワード | 糖鎖 / マイクロドメイン / 精子 / カルシウムイオン |
研究概要 |
本研究ではブタ精子マイクロドメインから見出された糖タンパク質WGA-gpの構造と機能解析を行なっている。本年度は、cDNAクローニングによるWGA-gpのタンパク質構造解析を行なった。WGA-gpの発現組織解析を行なった結果、精巣上体尾部の上皮細胞で生合成されることを明らかにした。そこで、精巣上体からcDNAライブラリーを作製し、PCR法によってcDNAクローニングを行なった結果、得られた配列はブタCD52のcDNA配列と一致した。これは63アミノ酸残基からなり、N末端にシグナルペプチドを、C末端にGPIアンカーシグナルを有していることが示された。WGA-gpはGPIアンカーを切断する酵素PI-PLCに、感受性を示した。これまでの結果から、WGA-gpはブタCD52の成熟タンパク質で、10アミノ酸残基からなるGPIアンカータンパク質であり、3つの糖鎖付加部位を持つことを明らかにした。さらに、この糖鎖構造をレクチンや質量分析によって解析した結果、N型糖鎖に末端α-GalとコアFuc残基が存在し、O型糖鎖には硫酸基が存在することを示唆した。本研究によって、初めてブタの精子からCD52を見出し、そのタンパク質と糖鎖構造を実験的に明らかにした。またWGA-gpは、その糖鎖に特異的な抗体mAb.4D1を添加することで、細胞内カルシウム濃度が変動することから、カルシウム制御機構を調節していると考えられる。 mAb.4D1とカルシウムポンプやチャンネルに対する阻害剤を同時に用いて、細胞内カルシウム濃度を測定した結果、L-typeのカルシウムチャンネルとPMCAポンプに対する阻害剤で、抗体の影響が抑制された。 この結果から、WGA-gpは糖鎖を介して、これらの分子を調節している可能性が示された。この細胞内カルシウム調節の機能は、CD52の機能として、初めて提唱された機能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、ファージディスプレイ法を用いたWGA-gpのcDNAクローニングは難航したが、その後、PCR法によってWGA-gpのcDNA配列を決定できた。その結果、今まで明らかになっていなかったWGA-gpの構造が明らかになり、分子の特徴が理解できた。また、WGA-gpが関与するカルシウム制御分子として、L-typeのカルシウムチャンネルとPMCAポンプと推定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、WGA-gpによるカルシウム調節にL-typeのカルシウムチャンネルやPMCAポンプが関与することが示唆された。しかし、その調節が直接的な相互作用かどうかは明らかでない。その相互作用を明らかにしようと、mAb.4D1を用いてWGA-gpとの共沈を試みたが、カルシウム制御分子は見いだせなかった。今後、精子ホモジネートの調製法やポンプやチャンネルの抗体を用いて、免疫沈降することでWGA-gpとの相互作用を示したい。また、CD52は哺乳類でしか見つかっていないが、ブタCD52であるWGA-gpとウニのflagellasialinは全体的な構造の特徴が類似していた。糖鎖に富む糖タンパク質が精子細胞内カルシウム濃度の調節を担っている可能性があるため、鳥類や爬虫類などから類似分子を探索し、精子における高度糖鎖修飾タンパク質の重要性を示す。
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