研究課題/領域番号 |
12J10731
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福島 万紀 島根大学, 生物資源科学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 入会林野 / 生活環境主義 / 生産森林組合 / 共同管理 / アクション・リサーチ |
研究概要 |
本研究は、当該居住者の立場から環境問題をとらえる生活環境主義を発展させた立場と、人為に対する自然生態系の応答をとらえる自然生態学を融合した視点で、社会的ニーズに応える森林資源の多様な潜在力を明らかにすることを前半の目標としている。平成24年度は、島根県浜田市弥栄町のA集落を事例調査地とし、①資料調査、②聞き取り調査、③山林の利用履歴ごとの植生調査を予備的に実施し、「地域の森林が具体的にどのような種組成、林分構造であるべきか?」についてのレジティマシーが、地域社会の領域でどのように保持されていたかを明らかにした。その結果、①A集落において入会林野が成立したのは1650年代と推定され、入会林野の共同利用にかかわる慣習が存在してきたこと、②A集落の住民は1970年代後半には入会林野を「解体」して生産森林組合を立ち上げたが、1990年代の後半以降、集落住民の共同作業が行われなくなったこと、③A集落の入会林野であった内部には、「かつての薪炭林をそのまま放置した立野」、「生産森林組合が植林した造林地」、「分収造林契約により植林された造林地」の3つの土地利用パターンが存在し、現在成立する森林の種組成が土地利用パターンごとに異なることを明らかにした。これらの研究成果は、山林の共同利用と管理にかかわるレジティマシーの変化が、山林内の植物資源の構成にどのような影響をもたらしたかを実証的に検証することを可能とする貴重な事例であり、同地域の今後の山林利用にかかわる方向性を検討する上で重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の調査により、事例対象地で保存されてきた資料の存在を確認し閲覧することができた。また事例対象地における山林の共同利用にかかわる聞き取り調査や、山林内に保持される植物資源を把握する植生調査を予備的に行った結果、事例対象地の概況を把握することができた。だが、事例対象地で保存されてきた資料は、当初予測されたよりも多数にわたることが判明したため、次年度以降も、資料調査を継続する必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年の調査研究により得られた知見をふまえ、事例調査地であるA集落の山林を土地利用履歴ごとに区分けし、現在の森林資源の状況をより詳細に調査する。また、事例調査地で保存されてきた、山林の共同利用にかんする資料の閲覧・解読・分析を継続してすすめ、事例調査地の住民に知見を還元するための資料作成に取り組む予定である。
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