研究実績の概要 |
宇宙に存在する金属の起源は、星が寿命を終えて超新星爆発を起こした際にばらまかれたものである。従って宇宙初期から現在に至るまでの金属の変化、すなわち化学進化を知ることで星の形成史に迫ることができる。特に宇宙初期の化学進化の情報は、宇宙で最初に星が生まれた時期を探る上で極めて重要である。遠方にあっても明るく、スペクトルに金属由来の輝線・吸収線が多く見られる活動銀河核は宇宙初期の化学進化を探るのに最も適した天体であるが、そのスペクトルから化学組成を導出する方法が確立されていない点が最大の課題となり、長らく大きな進展はない状況であった。 スペクトルから化学組成を導出する方法を確立すべく、私は活動銀河核可視光スペクトルの最大のデータベースであるスローン・デジタル・スカイサーベイ (SDSS) から明るい活動銀河核であるクェーサー約17,000天体分のスペクトルを解析し、 鉄とマグネシウムの輝線強度の測定を行った。その結果、これらの輝線強度は輻射場の強さを表すエディントン比というパラメータに強く依存していることを発見した。次にその原因を探るべく、天文学研究で広く使われている光電離コード Cloudy で輻射のシミュレーションを行った。最近の研究から示唆されるX線強度や活動銀河核ガスのパラメータへの制限を考慮して可能な範囲で網羅的に調査した結果、エディントン比に応じてガス密度が変化し、それによって輝線強度が大きく変化していることを明らかにした。これは、従来化学組成の指標とされていた輝線強度比がガス密度に大きく依存していることを示唆する重大な結果である。さらにガス密度依存性を補正することで、輝線強度比から信頼性のある化学組成の導出法を考案することに世界で初めて成功した。これは活動銀河核による化学進化研究では画期的なものであり、今後の宇宙化学進化研究にとっての大きな礎を築くことができた。
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