研究課題/領域番号 |
12J10900
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野中 綾子 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 恐怖記憶 / 扁桃体 |
研究概要 |
1.恐怖発現に関わる扁桃体外側核(LA)および扁桃体基底核(BA)の神経細胞集団がどのように選ばれるのかを明らかにした。神経活動依存的に発現する最初期遺伝子のmRNAをin situ hybridizationで検出することにより、条件づけ前(恐怖非発現時)、条件づけ時、恐怖記憶想起時に活動した細胞集団を同定したところ、LAおよびBAにおいて、恐怖非発現時と恐怖記憶想起時で活動する細胞集団が変化していた。活動を変化させた細胞についてその詳細を解析したところ、条件づけ時に活動した細胞、活動しなかった細胞が、それぞれ恐怖記憶想起時に活動する、しないように変化することが明らかとなった。本結果は、恐怖記憶のメカニズムに迫るものとして神経科学会に大きなインパクトを与えることが期待される。 2.恐怖発現時に活動する細胞の解剖学的特徴を明らかにした。『扁桃体の恐怖出力部位である中心核(CeA)に逆行性トレーサーであるcholera toxin B(CTB)を投与し、砧およびBAの細胞のうちCeAに投射している細胞を可視化した。あらかじめCTBを投与しておいたマウスに恐怖記憶を想起させ、想起時に活動した細胞をc-Fosタンパク質の免疫染色により同定すると、CTB陽性細胞のほうが陰性細胞に比べ恐怖記憶想起時に多く活動していた。コントロール群ではそのような差は見られなかった。本結果は、恐怖記憶想起時に活動する細胞の一部は解剖学的にあらかじめ決まっていることを示唆する。恐怖記憶に関わる細胞が解剖学的に決まっているのか、条件づけ時の生理学的条件によって決まるのかは未だ結論が出ておらず、本結果はこの議論にひとつの可能性を提示するものとして意義深いと言える。 以上の結果は論文にまとめ、nature neuroscience誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.恐怖発現時に活動する扁桃体外側核および扁桃体基底核の細胞がどのように選ばれるのか、および恐怖発現時に活動する細胞の投射を明らかにしており、これらの結果により扁桃体外側核および基底核がどのように恐怖発現を司るのかを示している。 2.以上の結果をすでに論文としてまとめて投稿している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の研究計画に加えfrontal association cortex(FrA)という脳部位にも着目しようと考えている。FrAは扁桃体と相互の投射関係を持つこと、その不活性化が恐怖記憶を障害することが知られており、当研究室においてもFrAを不活性化すると恐怖記憶が安定なものとならないことが示されている。扁桃体による調節を受けている可能性も、逆に扁桃体を調節している可能性も考えられ、大変興味深い。また、FrAは脳表にあるため顕微鏡でのアクセスが容易であり、恐怖を感じているときの神経活動をin vivoでリアルタイム観察できる。神経活動をリアルタイムで観察することにより、扁桃体による恐怖調節について新たな知見が得られることが期待される。顕微鏡によるin vivoでの神経活動観察の系は当研究室ですでに立ち上がっており、すぐに実験を開始できる。
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