本年度は、Srをブロック層に含むゼロ電荷供給層超伝導体Sr2Can-1CunOd[0(Sr)2(n-1)n]相を母相とする水分子を含む派生相が母相と比べ超伝導転移温度が変化しない、という初年度に得られた実験結果の検証実験ならびに考察を行った。Baをブロック層に含むゼロ電荷供給層超伝導体では同様の派生現象により超伝導体転移温度が減少しており、プロトンや炭酸基といった電荷を持つ分子のコインターカレートがキャリア密度を変化させていると考えられていた。しかしながら、Srをブロック層に含む0(Sr)2(n-1)n相では、水分子の侵入により非超伝導層が0.32nmと大きく伸長したにも関わらず転移温度が変化せず100Kを超える高い超伝導転移温度を保つことから、従来考えられていたブロック層厚の増加に伴い不可逆磁場特性が指数関数的に減少するという傾向は、この系には当てはまらないことが示された。これらの結果から、キャリア密度の変化が起こらずにキャリア分布のみが変化した新たな系の確立に成功したと考えられる。これらの系の正確なキャリア分布解析のため、X線ならびに中性子回折による結晶構造解析を行った。この系において銅酸化層を3層有する0(Sr)223相では、派生前後で不可逆磁場特性ならび粒内臨界電流密度特性の向上が見られたことから、本研究の目的である臨界電流密度特性とキャリア分布の関係を示唆する結果が得られた。
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