研究概要 |
膜脂質はオルガネラごとに組成が異なるだけでなく、同一膜内でも不均一に分布しており、受容体等の活性制御を担う機能的なドメインを形成していると考えられている。しかし、膜脂質は側方運動の拡散速度が大きく、一般的な化学固定剤と反応しないため、生体内での分布を正確に捉えることが困難である。そこで本研究課題では、生理的分布を維持したまま膜脂質を物理的に固定・標識できる手法である急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を応用することにより、ドメインの可視化と機能的意義の解明を目標としている。 本年度は、レプリカ像において形態的な特徴が乏しい膜構造を区別して解析するため、オルガネラマーカー、特にRABファミリー分子群の抗体反応性を検討した。これにより、哺乳類細胞の凍結割断レプリカを用いて、成熟段階の異なるエンドソームを識別することが可能になった。次にエンドソームの成熟過程と関連して産生されるホスホイノシチドの分布を可視化するため、既知の脂質結合タンパク質をクローニングして脂質結合能を評価した。その結果、ホスファチジルイノシトール(3,5)二リン酸(PI(3,5)P2)を認識するプローブを得た。PI(3,5)P2の代謝に異常がある出芽酵母の変異体から凍結割断レプリカを調製し、プローブによる標識を行った結果、PI(3,5)P2が液胞膜の細胞質側リーフレットに局在することを明らかにした。またPI(3,5)P2を増加させることが知られる高浸透圧条件下では、プローブの標識密度が増加した。これまでにPI(3,5)P2の細胞内分布は詳細に解析されておらず、今回見出したプローブを応用することにより、エンドソームの成熟過程と脂質分布の関連性が明らかになると期待される。
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