研究概要 |
カルバゾール骨格に芳香環あるいは芳香族複素環が縮環したアリールおよびヘテロアリール[以下,(ヘテロ)アリールと略す]縮環カルバゾールは,様々な生理および薬理活性を示すことでその有用性が広く知られているほか,近年では有機EL素子などの光電子材料としても注目されている重要な化合物群である。(ヘテロ)アリール縮環カルバゾールは,芳香環および芳香族複素環の縮環位置により,[a]-,[b]-,[c]縮環型の三つのタイプに分類できるが,本研究では,既に達成している(ヘテロ)アリール[a]カルバゾールの合成研究を応用することで,他の縮環タイプ([b]-,[c]縮環型)の新規合成法の開発を第一の目的とする。また,本研究により得られた多種多様な(ヘテロ)アリール縮環カルバゾールの紫外-可視および蛍光スペクトルを測定し,蛍光量子収率を算出することで,芳香環の縮環位置の違い,縮環している芳香環の違い,置換基の位置や種類の違いが発光特性に与える影響を系統的に評価することを第二の目的とする。最終的には,構造と光学特性の間の相関から得られた知見を活用し,優れた発光特性を持つ(ヘテロ)アリール縮環カルバゾールを合成する。現在のところ,インジウム触媒を用いた(ヘテロ)アリール[a]-,-[b]-および-[c]カルバゾールの新規合成法の開発に成功している。また,多種多様な骨格構築が可能な本合成法の特長を活用し,(ヘテロ)アリール[a]-および[c]カルバゾールの蛍光スペクトルの測定および蛍光量子収率の算出を行い,ここでは,(ヘテロ)アリール縮環カルバゾールと構造と発光特性の間には興味深い相関があることを明らかにした。以上のように,自身で開発した合成法から得られた化合物の物性をスクリーニングすることで,構造物性相関に関する新たな知見を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ,目標としていた[a]-,[b]-,[C]縮環タイプ全ての合成法の開発に成功し,既に国際学術誌および学会にて発表を行っている。本年度が研究計画の最終年となるが,既に回および回縮環型カルバゾール発光特性評価は終えており,残りの回縮環型についても国際学術誌への投稿準備中である。したがって,概ね計画通り進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画としては自身で合成した(ヘテロ)アリール[b]カルバゾールの光学特性についても同様に比較検討を行い,三つのタイプ全ての蛍光スペクトルおよび量子収率の系統的評価をおこなうことで,縮環型カルバゾールの構造と発光特性の間の相関を解明する。また,ここでの知見を活用し最も発光効率の優れた骨格を特定したのち,さらに変換反応により分子量を大きくすることで,実用的利用を志向した発光効率および耐久性をも兼ね備えた新規化合物の合成に着手する。最終的には,ここで得られた結果を学会参加および国際論文誌への投稿によって成果発表とする。
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