研究概要 |
私は今年度、先に報告したチオアミドを求核種前駆体とする触媒的不斉ダイレクトアルドール反応のさらなる応用展開として、本反応を鍵反応とする脂質異常症治療薬アトルバスタチン合成、及びanti選択的反応の開発を行った。まず、アトルバスタチン合成に関して報告する。2011年に報告した第一世代合成法では、本ダイレクトアルドール反応を鍵として14工程にてアトルバスタチン合成を達成したが、本法では高価な不斉配位子の利用の他、保護基の着脱、及び合成終盤での窒素源の導入に伴う工程数の長さに改善の余地を残していた。今回私は、これらの諸問題を(1)配位子の効率的回収、(2)分子内オキシマイケル反応によるsyn-1,3-ジオールの形成、及び(3)チオアミドの窒素源としての利用、の3点を組み込んだ新規合成経路を構築することで解決し、プロセス合成へ応用可能なレベルでの不斉配位子の再利用と9工程でのアトルバスタチン合成を達成した。続いて、aDti選択的反応の開発について報告する。通常、アルドール生成物の剛syn,antiの作り分けは、エノラート生成段階でのE,Z制御により行うが、チオアミドはその立体障害からE-エノラート生成が極めて不利である。今回私は、求核種前駆体としてE-エノラートを生成するチオラクタムを選択することにより、種々の脂肪族及び芳香族アルデヒドに対するanti選択的触媒的不斉ダイレクトアルドール反応を開発した。また、得られたアルドール生成物のチオアミド部位の変換により、対応する様々な有用生成物への誘導も行った。 今後これらの誘導体、及び既に報告しているチオアミドのsyn選択的触媒的不斉ダイレクトアルドール反応を基盤とした有用有機化合物群の合成検討を実施する予定である。
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