研究課題/領域番号 |
12J11009
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
宇部 卓司 東京理科大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 水 / 水溶液 / 赤外分光 / 水熱反応 / その場測定 / 水素結合 |
研究概要 |
本研究では、赤外分光法の弱点ともいえる水反応場におけるその場測定を主眼に置いた装置の開発と応用を行っている。本年度はA1薄膜と水との水熱反応のその場測定と、水の4相(氷、水、超臨界水、水蒸気)における赤外吸収スペクトルをカーブフィット解析し、それぞれの吸収要素の帰属を行った。 Al薄膜は膜厚に依存せず63℃付近より水と反応し水酸化アルミニウムの一種であるベーマイトへと改質された。加えて水との反応はこのベーマイトへの改質と、膜内への水の含浸という2段階の反応を経るプロセスであることが明らかとされた。また、水は水分子1個あたりの水素結合数が異なる集合体によって構成され、水素結合数が4の氷の状態から、水素結合数が0の水蒸気までを一貫して説明できるモデルの構築に成功した。水を室温から420℃まで等圧変化(30MPa)させた場合のスペクトルにこのモデルを適用し、各吸収要素の面積率で比較することで、低温では水素結合ネットワークに属する水分子が多くを占めているが、高温になるにつれて、ネットワーク構造が切断され、水素結合数が1である水の二量体が主要素になり、気体状態の特徴である振動の回転遷移状態に起因するP・R枝の出現する様子が確認された。NMR等を用いた他論文における実験結果との合致からも本モデルは支持されるが、本研究では室温のアセトン水溶液を用いて実験的に水同士の水素結合を切断した状態を作り出したものを同様に測定して、カーブフィット解析することで低波数側に存在するエレメントがアセトンの濃度に対して劇的に減少する様子を捉え、このエレメントが水素結合した水に相当することが判明した。また、水とエタノールとの混合状態を同手法によって解析したところ、水とエタノール分子は水溶液中では濃度に依存せず、互いの局所構造を維持しており、殆ど会合していないことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤外分光による水の測定例は前例が少なく、吸収ピークの系統的なカーブフィット解析に耐えうる精度を実現した例は本研究以外には確認されていない。この水分子の赤外吸収スペクトルを解析することで、水分子の水素結合状態を評価する手法は新たな水中環境での溶質分子の水和状態を評価する手法として期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、水中の水分子の水素結合状態を赤外分光によって評価し、溶質分子との相互作用を解析するという『水反応科学』の分野の構築に貢献できたと考えられる。次年度の研究においては、この手法の応用として、エタノール水溶液を超音波により震盪させた場合の経時変化、生体分子(ATP等)のpHを変化させた場合の会合状態の変化を調査していく。
|