「マンガと映画の比較メディア論」という研究課題を、「様式(スタイル)」概念を用いた近代マンガの理論構築によって推し進めてきた。この研究の背景には、従来のマンガ研究が、「映画的手法」といった概念を用いることで、「手法」の水準に議論を収斂させてきたことへの批判的意識がある。すなわち、そうした議論は、しばしばマンガと映画の対応関係を自明の前提とし、それら異なるメディアに属する表現(たとえば映画におけるクロースアップとマンガにおけるクロースアップ)の同等視を可能にしているところの、共通の文化史的背景は何なのか、という問いを欠落させてしまうのである。 そこで本研究は、マンガに見出される映画性を、表面的な「手法」の水準においてではなく、作品が属す「様式」の水準において捉える。そして、この枠組みの移行とともに、マンガを映画と同様の文化史的背景を持つ近代メディアとして捉える視座を得ることを目的としている。 当該年度は、この構想の実現に向けて、理論的な基盤固めに専念してきた。特に、この一年間で得た新たな知見をも踏まえて、これまでの考察を根本から整理し直し、マンガの分析のための「様式」概念を整備した。その概略は、(一)媒体の物質的な特性を議論の前提とするのではなく、方法上の順序として第一に、問題の表現が属する様式を捉えるべきこと、(二)様式の把握にあたっては、個別の手法に注目するのではなく、それらが機能する体系そのもののあり方に焦点を当てるべきこと、という二つの段階から説明される。こうした考察の具体的な成果は、現在作業中の単著(NTT出版にて企画成立済)で発表予定である。
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