研究課題/領域番号 |
12J11163
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
野嶋 優妃 学習院大学, 理学部, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 脂質二重膜 / リポソーム / 高速時間分解分光法 / trans-スチルベン / 粘度 / エネルギー移動 |
研究概要 |
生体膜中で進行する生化学反応は膜たんぱく質によって触媒される。膜たんぱく質は脂質二重膜に取り囲まれているので、脂質二重膜を生化学反応が進行する場であると考えることができる。化学反応の速度は反応場の化学的性質の影響を受ける。そのため生化学反応をより深く理解するには脂質二重膜中の化学的性質を知る必要がある。本研究では反応場を特徴づける重要な性質である、エネルギー移動特性と膜中の微視的な粘度から反応場としての生体膜を評価する。反応場としての生体膜を調べることで、生化学反応が効率よく進行する理由をよりよく理解することを目指す。 平成25年度は1. ピコ秒時間分解ラマン分光法による脂質二重膜中のエネルギー移動速度の温度依存性と、2. チップ増強ラマン分光法を用いた脂質二重膜中の局所的環境の評価について研究を行った。1.ではDMPC (dimyristoyl-phosphatidylcholine)というリン脂質からなる膜の温度を変化させて、膜中でのエネルギー移動速度を測定した。膜の温度が上がるにつれて、エネルギー移動速度は大きくなった。温度が上がると脂質の炭化水素鎖の熱運動が大きくなることから、膜中のエネルギー移動速度は脂質の炭化水素鎖の熱運動の影響を受けることが示唆された。2.ではDPPC (dipalmitoyl-phosphatidylcholine)というリン脂質からなる脂質二重膜にプローブ分子としてtrans-スチルベンを封入した。回折限界を超えた20nm程度の高い空間分解能をもつチップ増強ラマン分光法を用いることで、通常のラマン分光法では信号が弱すぎて観測できない、一個のtrans-スチルベン分子由来のチップ増強ラマンスペクトルを観測することができた。チップとスチルベン分子の相対位置が変化するとtrans-スチルベンのラマンバンドの位置が変化した。チップ増強ラマン分光法ではスチルベン分子の局所的な環境の違いを観測できる可能性があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度中に脂質二重膜中のエネルギー移動特性の温度依存性を測定し、膜中のエネルギー移動速度は膜の温度が高くなるにつれて大きくなることがわかった。膜の温度が高くなると脂質の炭化水素鎖の熱運動が大きくなることから、膜中のエネルギー移動過程と脂質の炭化水素鎖の熱運動の大きさの間に相関があることが示唆された。チップ増強ラマン分光法を用いた脂質二重膜中の局所的環境の評価については、得られたスペクトルから膜中のスチルベン分子の局所的な環境の違いを観測できる可能性が示唆された。どちらの研究内容についても新たな知見が得られたことから、研究が順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
脂質二重膜のエネルギー移動特性の評価については、生体膜由来の脂質から成る脂質二重膜を調製しピコ秒時間分解ラマンスペクトルを測定する。得られた測定結果とこれまで人工脂質二重膜の測定から得られた知見をもとに、生体膜のエネルギー移動特性について考察する。 脂質二重膜中の微視的な粘度の見積もりも、生体膜由来の脂質から成る脂質二重膜を用いて測定を行い、生体膜中の微視的な粘度を見積もる。また膜中のけい光プローブ分子の深さを変えて、膜中の異なる深さにおける微視的な粘度の違いを調べる。
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