研究概要 |
ガス透過性が高いポリジメチルシロキサン(PDMS)を隔てて, 炭酸ガス供給と酸素吸収を兼ねた水溶液(ジャケット液)と培地を接触させる方式により, マイクロ流体チップ内の二酸化炭素分圧と酸素分圧を任意の値に定値で制御する培養系を構築して, ES細胞の分化誘導制御に利用する研究に取り組んでいる. 今年度は, 特にマイクロ流体チップの歩留まりの向上と酸素分圧制御機能の評価に注力した. 本研究の目的であるチップ内でのES細胞の分化誘導の達成に向けて, マイクロ流体チップの製作方法の最適化と酸素分圧の制御範囲の拡充は, 今後の製品化を含めた実用化にとっても必要不可欠である. 製作工程の見直しによってチップの歩留まりが向上した結果, 今後の研究の進展が加速する期待ができる. 酸素分圧の制御については, ジャケット液である純水に溶解させた炭酸水素ナトリウム(炭酸ガス供給源)と炭酸ナトリウム(炭酸水素イオンと炭酸の平衡反応を利用して炭酸ガスの生成を抑制させるために使用), アスコルビン酸ナトリウム(酸素吸収源)の濃度を調整することで, チップ内の二酸化炭素分圧を5%近傍に維持したまま酸素分圧を5,10,15,20%近傍に定値制御する検証実験を終えた. 加えて, 本培養系を用いてマイクロ流体下で鶏胚後根神経節の神経細胞を正常酸素下(酸素分圧20%)と低酸素下(酸素分圧5%)で3日間の培養を試みた. 培養実験の結果, 正常酸素下, 低酸素下共に神経細胞は生存, 増殖したが, 細胞挙動に違いが見られた. 正常酸素下での細胞は, 神経軸索が伸長したが, 低酸素下の細胞では, 軸索の伸長が見られず, 鶏胚後根神経節の神経細胞は, 低酸素下で軸索の伸長が抑制される傾向が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チップ内の雰囲気制御を行うマイクロ流体チップの製作方法を改めた結果, 歩留まりが向上した. 後に, ES細胞の分化誘導を検証する段階になれば, チップの大量使用が予想される. 歩留まりの向上により, 今後の研究進展は, よりスムーズになるだろう. また, 前年度に基礎を構築したチップ内の酸素雰囲気の測定方法を用いて, チップの性能評価を達成した. 開発したチップは, 製作が安定し, 酸素雰囲気の制御能力も明らかになったことで, いよいよES細胞を使用した神経細胞への分化誘導実験に着手する土台を築いたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
開発したマイクロ流体チップでES細胞を培養するにあたり, 第一にES細胞を培養する際の細胞外基質の選定を行う. 胚様体を形成する際のES細胞は浮遊状態であることが望ましく, 胚様体から分化する際は, 接着状態が良いとされている. よって, ES細胞を培養する際の細胞外基質を検討する必要がある. 具体的には, 異なる細胞外基質をコートしたディッシュでES細胞から胚様体の形成と神経細胞への分化誘導を行う. 第二に, マイクロ流路内に導入するES細胞の最適な細胞数を検討する. ES細胞は, 凝集して胚様体を形成するためある程度の細胞数は必要だが, 細胞数が多すぎても分化を開始してしまうので, 最適な細胞数の検討が必要となる. ディッシュ上と異なり, マイクロ流路内では表面積対体積比が高いため, 実際に流路内に細胞数を条件分けしてES細胞を導入して経過を観察する方法で行う. 第三には, チップ内の酸素分圧を制御して, 酸素濃度と分化誘導効率の相関関係をとる. 分化誘導して得られた神経細胞をニッスル染色して, 染色像のヒストグラムを作成して, ピクセル値が最も多い輝度を得る. 得られた輝度と酸素分圧の撮影する. なる初期細胞数を導入したチップを同時に並行して培養する実験方法をとる.
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