本研究では,マイクロ流体チップ上で培養雰囲気(炭酸ガス濃度,酸素ガス濃度)を調節して,動物細胞を低酸素培養するデバイスの開発を行った.最終年度は,チップ上を任意の酸素分圧に調節する方策を明らかにして,細胞を用いた検証実験を行い,それらの成果を論文にまとめ,国際誌へ投稿した. 開発したマイクロ流体チップ上の培養雰囲気は,ガス透過性が高いポリジメチルシロキサン(PDMS)隔壁を介して培地と接触するジャケット液を用いる.ジャケット液は,炭酸ガス供給源の重曹と炭酸ナトリウム,酸素吸収源のアスコルビン酸ナトリウム(NaHAsc)を溶解したもので,これら試薬の濃度で培養雰囲気を調節する.実験の結果,チップ上の炭酸ガス分圧を5%にした上での酸素分圧は,0.8M重曹水に溶かす炭酸ナトリウムとNaHAscの濃度で調節でき,その関係を明らかにした.その上で,PC12細胞が低酸素培養下で生存率が低下する先行研究を受けて,開発したマイクロ流体チップによる低酸素培養の検証実験を行ったところ,先行研究を肯定する結果が得られたことから,低酸素培養デバイスとして妥当と結論付けた. 加えて,ES細胞を扱う研究者からの要望より,マイクロ流体チップの非専門家でも直感的に使用できるよう改良を行った.具体的には,チップの構造をセルカルチャーフラスコ様に再設計を行い,マイクロ流体外に細胞培養面積を確保することで,用途に応じてマイクロ流体内外での培養を使い分けられるようにした.そして,このチップを用いて,マウスES細胞の低酸素培養を行ったところ,検証中ではあるが低酸素培養においてES細胞の生存率が向上した.分化誘導制御についても低酸素培養により分化誘導効率に違いが生じる傾向が見られた.以上より,低酸素によるES細胞の選択的分化誘導の目処がたち,本研究の目的はほぼ達成できたと考える.
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