研究概要 |
当研究の目的は、カーボンナノリング・ナノベルトをいかにして合成するかに重きを置いている。受け入れ研究室である伊丹研究室ではこれまで、ベンゼンの合成等価体であるシクロヘキサンL字型ユニットをして用いた合成戦略によって、ベンゼン環がパラ位で環状に繋がれたシクロパラフェニレン(CPP)の合成を達成している。本研究者はこれらの知見を活かしつつ、新しい合成法によってシクロパラフェニレン以外の未だ達成されていない多種多様なカーボンナノリングとカーボンナノベルトの精密合成が可能となるのではないかと考え、研究に着手した。カーボンナノチューブの部分骨格とみななせる筒状π共役分子をカーボンナノリング・ベルトと定義しているが、そのうちこれまで合成されてきたものはCPPを含むごくわずかの分子である。本研究が成功した暁には分子構造・分子量が定まった正解初のカーボンナノベルト合成への応用も期待でき、合成化学・材料化学界にもたらす影響は計り知れない。 平成24年度の研究において、本研究者はアルキンを用いたカーボンナノリングの新規合成法の開発に成功した。cis-1,4-ジエチニルシクロヘキサンL字型ユニットを用い、Glaser-Hayカップリングによる環化オリゴマー化、1,3-ブタジイン部位のチオフェン化、シクロヘキサンの芳香族化によって、含硫黄カーボンナノリングであるパラシクロフェニレン-2,5-チオフェニレン(CPPT)の合成を世界で初めて達成した。 CPPTは更なる分子変換によって様々なカーボンナノリング・ナノベルトへと誘導することができる合成中間体であるが、それ自体が電子豊富な芳香環であるチオフェンを含んだ筒状π共役化合物であり、大変興味がもたれる。実際に、CPPTは台形錐型構造をとることや特徴的な光物性を有することがあきらかとなった。
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