研究課題/領域番号 |
12J40129
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
宮崎 珠子 岩手大学, 農学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 新生子牛 / 第四胃 / カード形成 / 初乳 / 免疫グロブリン / メタボロミクス |
研究実績の概要 |
本研究は、哺乳子牛特有の第四胃の凝乳機構の生理的意義と消化器疾患との因果関係を解明することを目的に研究を進めてきた。第四胃における凝乳、すなわちカード形成の生理的意義を解明するために、初回初乳摂取時の新生子牛のカード形成に着目し、カードを形成する初乳と形成しないホエーを哺乳した子牛を比較し、第四胃のカード形成の有無が初乳からのIgGの吸収に影響していることを明らかにした。またカード形成した子牛について、大きな一塊のカードを形成した子牛の方が、小さい複数のカードを形成した子牛よりもIgGの吸収が高いことがわかった。 IgGの吸収は、健康な子牛の育成に必要不可欠で、生後24時間以内の子牛は、初乳に含まれるIgGを腸管から吸収し、血液循環に移行することが出来ることがわかっている。しかしIgGは分子量約15万の巨大分子であり、腸管での吸収機構についての詳細はわかっていない。このような巨大分子が腸管上皮から吸収され、血液循環に移行されるのであれば、低分子化合物も同様に吸収され、血液中の低分子化合物がIgGと同様に増加することが考えられた。そこで本研究では、初乳摂取前後の子牛の血清の低分子化合物を解析した。その結果、子牛の血清からは約2000の低分子化合物が検出され、その中から統計学的な手法を用いてIgGと同様の変動を示す化合物を抽出し、グリシン、スレオニン、αケトグルタル酸が初乳摂取後、経過時間とともに増加していることが明らかになった。しかし、IgGと同様に初乳摂取後増加する低分子化合物はかなり限られており、初乳成分は選択的に吸収されている可能性が示唆された。 以上の結果から、初乳からのIgGの吸収に第四胃のカード形成状態が関与していることと、IgGを含む初乳成分の腸管からの吸収と血液循環への移行は選択的に行われていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カード形成の生理的意義を解明するために、初回初乳摂取時の新生子牛のカード形成に着目した。平成26年度までに初乳とホエーを哺乳した子牛を比較することで、第四胃のカード形成の有無が初乳からのIgGの吸収に影響していることを明らかにした。平成27年度は、カード形成した子牛について、さらに詳細に調べた結果、大きな一塊のカードを形成した子牛と、小さい複数のカードを形成した子牛が存在した。それらを比較すると、大きな一塊のカードを形成した子牛の方が、小さい複数のカードを形成した子牛よりもIgGの吸収が高いことがわかった。 IgGの吸収は、健康な子牛の育成に必要不可欠だということが、生産者、農業関係者、研究者の間で常識となっている。また長年の研究から、生後24時間以内の子牛は、初乳に含まれるIgGを腸管から吸収し、血液循環に移行することが出来ることがわかっている。そのため、新生子牛は、できるだけ早くIgGを豊富に含む良質な初乳を摂取し、生後48時間までに血中IgG濃度を10mg/mL以上にすることが、その後の疾病率や致死率を低減するために重要とされている。 カード形成の生理的意義を初乳からのIgGの吸収と関連付けるためには、初乳からのIgGの吸収および血液循環への移行機構の解明が必須と考えた。そこで初乳摂取前後の新生子牛血清の低分子化合物を解析した結果、血清に移行する低分子化合物は限られていて、かなり選択性が高い可能性を示すことができた。 以上のように、当初の研究計画には記載していなかったが、カード形成の生理的意義の解明から初乳成分の代謝へと研究を発展させることができ、学会発表が可能となるまでデータ解析を進めたという点で、研究はおおむね順調に進展したと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの子牛のカード研究により、初回初乳摂取時の子牛の第四胃内カード形成が、初乳からのIgGの吸収に関与していることが明らかになった。それは第四胃のカード形成が、乳汁中のタンパク質をカードとなるカゼインと、IgGなどのホエータンパク質に分けるため、カード形成した方が効率的にIgGを腸管から吸収できるためと考えられる。しかしながら、初乳中のIgGの腸管での吸収機構については、その詳細はわかっていない。IgGは分子量約15万のタンパク質である。このような巨大分子が腸管上皮から吸収され、血液循環に移行されるのであれば、低分子化合物も同様に吸収され、血液中の低分子化合物がIgGと同様に増加することが考えられた。すなわち初乳摂取前後の血液中の低分子化合物を解析することで、初乳摂取がもたらす吸収機構を解明する糸口を得られると仮定した。 近年、種々のクロマトグラフィーと質量分析計を用いて低分子化合物を網羅的に解析する方法はメタボローム解析(メタボロミクス)として知られ、新たな疾病バイオマーカーや食品の品質管理における標品探索において重要な役割を担っている。そこで本研究では、最も分離能が高いとされている二次元ガスクロマトグラフィーと飛行時間型質量分析計を用いて、初乳摂取前後の子牛の血清を解析した。その結果、IgGと同様に初乳摂取後増加する低分子化合物はかなり限られており、選択的に吸収されている可能性が示唆された。 今後は、今回得られた血清のメタボロームをさらに詳細に解析し、初乳摂取が及ぼす影響について解明していく予定である。血清メタボロームは、血中代謝物を網羅的に解析したものなので、糖、アミノ酸、脂質の三大栄養素を中心に初乳摂取による変化を明らかにすることができれば、初乳摂取がもたらす栄養学的な意義を解明することが出来ると考える。
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