研究課題/領域番号 |
12J40145
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
酒井 奈緒美 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所・感覚機能系障害研究部, 特別研究員(RPD)
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キーワード | 吃音 / 成人 / ICF / 面接調査 / M-GTA / 評価法 / 吃音による困難 / 支援方法 |
研究概要 |
本研究の目的は、成人吃音者が抱える日常生活場面での困難・問題を評価しうる質問紙を作成することである。本年度は、吃音の当事者が抱える吃音による困難さを面接調査によって把握し、そのデータをもとに吃音成人の抱える困難を評価する質問項目(試案)を作成することが目標であった。そこで、まずInternational Classification of Functioning, Disability and Health, ICFのモデルを通して吃音の問題を捉え直し、それらについて問う「吃音のある方の生活経験に関する調査票」を作成した。その後、その質問紙を用いて吃音のある成人13名へ面接調査を行った。調査結果はすべて書き起こし、分析を行った。具体的には、面接時の発話記録に対しModified Grounded Theory Approach, M-GTAの手法を用いて、概念生成、サブカテゴリーを作成し、ICFのモデルの4つのカテゴリー(心身機能・身体構造、活動・参加、個人要因、環境要因)に分類した。その結果、19のサブカテゴリーと87の概念が抽出された。 面接調査を進める中で、吃音のある成人が抱える困難は、発吃から成人に至るまでの経過の中で形成され、変化してきたことが示唆されたこと、またその形成と変化のプロセスの一端を明らかにする事が、成人吃音者の支援方法を考案する際の糸口となる考えられたことから、質問紙作成の前に、成人吃音者が抱える困難を質的に分析することを本年度の目標として追加した。具体的には、抽出した概念に時間軸の観点を加え、概念図作成を行った。その結果、成人吃音者が抱える困難について、当事者の視点からの現在の問題の特徴と構造、それらが形成されてきたプロセスの一端が考察された。これらは、成人吃音者を評価するときの観点、支援法を考案する際の糸口を提供しうるものであり、臨床場面への応用が期待できる。 以上のように、ICFのモデルに基づいて半構造化した詳細な面接調査を行い、その結果をM-GTAの手法によって成人吃音者の問題を概念化・分類し、当事者視点の問題と形成プロセスを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度中に作成する予定であった質問紙を現在も作成中であるため、多少遅れている面もある。しかし、24年度の作業であった面接調査の結果から、吃音のある成人が抱える困難の形成プロセスの一端を示し、成人吃音者の支援法考案の糸口を与えるという成果を報告できた。またオリジナルの評価法作成と同時に、海外に存在する評価法の日本語版作成にも着手していることから、包括的には研究の目的を当初の予定通り達成できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在作成中の質問紙(試案)を完成させ、50名程度の吃音のある成人を対象に実施する。対象者は研究者が所属するセンターを受診した成人患者、吃音のセルフヘルプグループに所属している成人会員、また公募への応募者に依頼する予定である。協力を得られるものに対しては、信頼性検討の資料とするために、質問紙実施の2~3週間後に再度同じ質問紙を実施する。 評価法(試案)への回答結果について、項目分析を行う。さらに、各構成要素内の信頼性の検討として、クロンバックのα係数の算出により内的整合性の確認行い、また2回目の質問紙実施が可能であった協力者については、再現性の確認を行う。さらに、内容的妥当性の確認を行うため、吃音のある成人や言語聴覚士に項目の検討を依頼する。 分析結果をもとに質問紙(完成版)を作成する。
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