研究概要 |
ティラピアのような広塩性魚は環境水の浸透圧変化に伴い、塩類細胞の機能を変化せる。塩類細胞の機能変化は内分泌系と細胞外浸透圧の両因子により制御されていると考えられているが、in vivoの実験系を用いた研究ではその二つの影響を別々に検討するのは困難であった。そこで鰓の組織培養系を用いて、細胞外浸透圧と内分泌系の影響を個別に検討することを研究の目的とした。昨年度の研究から鰓が外界の浸透圧変化を直接感知し、浸透圧調節機能を変化させていることが示唆されたため、本年度は硬骨魚の淡水適応ホルモンとして知見の多いプロラクチンに着目し鰓の浸透圧調節機能への内分泌系による制御の検証を行った。淡水のティラピアから鰓弁を取出し、二次鰓弁と一次鰓弁の間に沿って切り込みを入れ、ティラピアに存在する二種類のプロラクチン(tPRL177, tPRL188)を培養液に添加し、8,24時間培養を行った。8時間、24時間の培養後、淡水適応を担うイオン輸送体NKAα1a, NCC, PRLR1のmRNA発現量は両方のプロラクチンに対し濃度依存的に上昇した。同濃度のプロラクチンを添加したときの発現量を比較したところ、8時間培養ではtPRL177が、24時間培養ではtPRL 188がNCCのmRNA発現量上昇への強い影響を示した。また、NKA, NCCに対する抗体を用いた免疫染色を行ったところ、tPRL 177, tPRL188添加群では非添加群に比べ、高密度に淡水型塩類細胞が存在することが確認された。以上の結果から、二つのプロラクチンは共に鰓の淡水適応機構の促進を担っているが、その効果の強さは時間によって変化することが示された。 次に、塩類細胞の分化について調べるため、二つのチミジンアナログ(IdU, CldU)を用いて実験を行った。この手法ではIdUとCldUを時間差でインジェクションすることで、異なるタイミングで加入した塩類細胞を同時に検出することが可能である。本年度は淡水ティラピアを海水へ、海水ティラピアを淡水へ移行し、IdU, CldUを腹腔内投与し7,14日目に鰓のサンプリングを行った。この鰓を、塩類細胞のマーカーであるNKAの抗体と新規細胞に取り込まれているIdU, CldUの抗体を用いて三重免疫染色を行ったところ、IdU, CldUが塩類細胞中に取り込まれている様子が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
塩類細胞の分化過程の解明のため、新規浸透圧環境に馴致しIdU, CldUで処理したティラピアの鰓をNKA, NKCC/NCC, NHE3, CFTRの抗体を用いて多重染色を行い、IdU, CldU陽性細胞と塩類細胞のサブタイプを照らし合わせることにより、塩類細胞分化過程の解明を目指す。また、ティラピアを低温・高温環境に馴致し、塩類細胞のイオン輸送能の変化を25℃で長期飼育した対照群と比較することで、水温が鰓の浸透圧調節機能に与える影響を調べる。
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