硬骨魚にとって鰓は体液の浸透圧調節を担う器官の一つであり、鰓の塩類細胞がイオン調節に重要である。魚類の鰓は浸透圧調節に加え、酸・塩基調節、アンモニアの排出、呼吸の機能を有するが、鰓の機能に直接影響する環境水中の溶存酸素濃度、イオン濃度、pHが浸透圧調節機能に与える影響については研究が進められてきた。しかし、水温と浸透圧調節機能の関係を調べた研究はほとんど行われていない。そこで、本研究では水温が魚類の浸透圧調節機能に与える影響に着目した。また、水温と浸透圧が成長に与える影響を検証することで、成長効率がよい飼育水の検証を試みた。 本実験では26°Cで長期飼育したモザンビークティラピアを対照群とした。温度と浸透圧の影響を調べるため、ティラピアを3つの水温(20、26、32°C)と浸透圧(淡水、1/3海水、海水)を組み合わせた9つの環境で飼育実験を行った。 まず、水温と浸透圧が魚類の成長に与える影響を調べた。ティラピアを絶食条件下で飼育し、成長速度の指標として体重減少量を測定した。その結果、水温上昇に伴い体重減少率は有意に増加したが、浸透圧の影響は見られなかった。次に、鰓におけるイオン輸送体のmRNA発現量を比較することで、温度が浸透圧調節に与える影響を調べた。海水型塩類細胞で発現するCFTR、NKCCは、1/3海水群で温度上昇に伴いその発現量も高くなった。ここから、淡水適応能と海水適応能の両方を備える1/3海水馴致群では、温度が高くなるほど海水適応能を発達させることが示された。また、淡水でイオンの取込みを担うNHE3は、淡水、1/3海水で高温において発現量が高くなった。NHE3はアンモニアの排出にも関与することが近年明らかになっている。ここから、高温環境ではエネルギーを得るために分解されたタンパク質からアンモニアが生じ、それを排出するためにNHE3の発現量が高くなったと推測された。
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