対象とするラン科シュンラン属5種(マヤラン、サガミラン、シュンラン、ナギラン、ヘツカラン)のうち、前年はシュンランを中心に調査を行ったため、今年度は残り4種に重点を置いて、開花期の7月から10月に調査およびサンプルの採集を行った。採集したサンプルは菌根菌が感染している部位を選別し、DNAを抽出した後、菌に特異的なプライマーを用いて核リボソームRNA遺伝子ITS領域の塩基配列を決定し、既知の菌の配列と相同性を比較することで菌根菌の種類を分子同定した。その結果、光合成で炭素をまかなう独立栄養種であるヘツカランは、腐生性の担子菌ツラスネラ科と特異的に共生しているのに対し、光合成を行わず共生する菌根菌から炭素をもらって生育する菌従属栄養種のマヤランとサガミランはおもに外生菌根性の担子菌ロウタケ科と共生していることを明らかにした。また、独立栄養と菌従属栄養の中間型で、炭素を光合成と菌根菌の両方から獲得する混合栄養種のシュンランとナギランは腐生菌と外生菌根菌の両方と共生していることも明らかにした。研究対象種のシュンラン属5種の系統関係から、栄養摂取様式の進化は独立栄養から混合栄養をへて菌従属栄養にシフトすることがすでに明らかになっており、本研究結果から、このような植物の栄養摂取様式の進化にともなって、共生する菌根菌との関係が、腐生菌のみとの共生から、腐生菌および外生菌根菌の両方との共生をへて、外生菌根菌のみとの共生へ大きくシフトしていたことが明らかになった。
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