研究課題/領域番号 |
12J40244
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
丹羽 幸江 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 特別研究員(RPD)
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キーワード | 室町時代の謡 / 記譜法 / 楽譜 / 観世宗節 / 幸若舞 / 早歌 / 謡本 |
研究概要 |
1室町期の謡本の記譜法の基本的性質の調査 室町末期の謡本の記譜法についてはいまだほとんど知られていない。このため、まず現行の基礎となった江戸初期元和卯月本との比較を通じて、室町末期の主要な系統の謡本の記譜法の基本的な特徴を探った。元和卯月本が音符や記号の使い方に厳格な規則を持つ規範譜としての性質を持つものであるのに対し、室町末期の楽譜は、明確な原則に基づいた規範的な楽譜と言うよりも、謡という鳴り響く音楽をそのまま記憶を頼りに書き留めた記述譜としての特徴を持つことが明らかになった。 2室町期の主要な系統の記譜法 「観世宗節『謡抜書』における室町末期の謡の旋律の類型性」(口頭発表1)では、室町末期の観世大夫宗節が亡き父の謡本を抜粋した楽譜『謡抜書』をもとに、歴史的にも類例のない抜粋楽譜がなぜ作られたのかを検討し、室町末期の主要な楽譜との比較を行った。宗節の記譜法を中心に据え、宗節の父親元広、嫡子元盛というシテ方三世代、また、宗節と同年代の観世元頼、その父長俊のワキ方二世代という室町末期の主要な二系統との比較を通じて、世代間の変化、個人様式の観点からその記譜法が明らかになった。 3先行芸能との比較 能の先行芸能である早歌、幸若舞、祝詞の調査・比較を通じて、室町末期の謡本の解読方法を模索した。 早歌についての先行研究では特定の箇所で特定の胡麻の配列があることが指摘されており、また幸若舞においても、音楽的な段落の特定の場所で常に類型的な旋律が使われやすいことに着目し、同様の事例が室町末期の謡にも適用可能かどうかについて検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初楽譜に記された胡麻(音符)のデータベースを作成し、それをもとに研究する予定であったが、計画を変更し、数本の謡本を選定し、基本的な記譜法の特徴を明らかにした上で、作業を行うこととした。この結果、どこをデータベース化すべきかという、本研究において楽譜の中で、歴史的変化の多い、より重要な箇所が明らかになり、重点的にそれらの箇所を研究することが可能となるとともに、調査対象を広げることが可能になった。このため、結果的に、予定通りの進展した。
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今後の研究の推進方策 |
問題点室町期の謡本の記譜法には補助記号は僅少で、胡麻の向きのみで音高の上げ下げが示される。このため、本研究の課題である、世阿弥による曲の趣「五音」や「声」の楽譜への反映を読み取るためには、胡麻の配列のパターンを調べる必要があるものの、どのパターンが具体的に「五音」を反映しうるのかが問題点となっていた。 解決方策24年度の研究により、胡麻の配列のレベルでも定型性を持つことがわかってきた。1つの小段の中では、自由に節付けしうる胡麻配列がパターン化しない箇所と、パターン化した箇所があることを推測するため、パターン化した箇所を重点的に調査する。
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