研究課題
本研究では、カーボンナノチューブ(CNT)の交流伝導特性への欠陥・不純物散乱の影響を明らかにすべく、理論数値解析を行った。まず、原子空孔欠陥一つを有するCNTの交流伝導特性の解析を行った。原子空孔によって誘起される空孔状態とダングリングボンド状態による電子散乱によって、交流伝導特性を特徴付ける電流-電圧位相差は容量性応答を示す。しかし、後者の近傍のみに誘導性ピークが現れることが分かった。モデル解析によって、この誘導性ピークの出現は透過関数スペクトルの半値幅に関係していることが明らかとなった。次に、交流応答への無秩序ポテンシャルの影響に関する数値解析を行った。無秩序ポテンシャル下では無秩序ポテンシャルの強さに依存して、位相差の振る舞いが質的に異なることが明らかとなった。この振る舞いは、力学インダクタンスによる誘導性応答と電子散乱によって引き起こされる容量性応答の競合によって決定していることが分かった。また、交流応答の不純物ポテンシャルの到達距離に対する依存性についても解析を行った。ポテンシャルの到達距離が格子定数より小さい場合には、不純物の濃度の増加に伴い位相差が減少、つまり、容量的な方向へシフトする。これは、不純物による電子散乱が容量性を誘起するためである。一方、到達距離が格子定数より大きい場合には、濃度の増加に伴い位相差が増加、つまり、誘導的な方向へシフトすることが明らかとなった。カーボンナノチューブの場合、ポテンシャルの到達距離が格子定数より大きい場合には、後方散乱が消失することが知られている。しかし、電子が輸送される際には不純物による散乱が生じ、その結果、輸送時間が増加する。力学インダクタンスは輸送時間に比例することから、上記振る舞いが理解される。本研究成果は、ナノスケールにおける交流応答の測定結果を理解するための知見を与えるものである。
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Japanese Journal of Applied Physics
巻: 51 ページ: 04DN01-1-04DN01-5
10.1143/JJAP.51.04DN01