交付申請書の「研究の目的」にあるように、研究員は有限温度Tにおけるクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)中のフェルミオン的な集団運動の解明を目指している。しかしg2T(g:結合定数)程度のエネルギー領域を解析する場合、衝突などの粒子同士の相互作用の効果が無視できない事を反映して、単純なループ展開は適用できない。申請者はその領域を解析できるように改善された摂動展開を、カダノフ・ベーム方程式に勾配展開を適用する事で系統的に導出する事を目指す。その結果として、その摂動展開と等価な運動学的方程式が得られると期待される。そのために2012年4月下旬から5ヶ月間、その手法の経験があるJean-Paul Blaizot氏をホストとしてフランスの理論物理学研究所に滞在し、研究を行った。その結果、期待された結果が得られた。この結果を論文にまとめ、Physical Review D誌において出版した。さらに、Blaizot氏と以下のような共同研究を行った。研究員は以前クォーク・グルーオンプラズマ中におけるクォーク的な低エネルギー集団運動の研究を先に述べた改善された摂動展開を用いて行い、その存在および分散関係、崩壊幅、強度などの性質を明らかにしていた。しかしながら、その解析は化学ポテンシャルが0の場合に限られていた。今回の研究においては、化学ポテンシャルが有限の場合について解析を行った。その結果、温度が0で化学ポテンシャルが有限の場合では粒子・反粒子対称性が破れる事により低エネルギー集団運動は存在しなくなる事を明らかにした。また、低エネルギー励起が存在する化学ポテンシャルの最大値は、温度と同程度の大きさである事を示した。現在これらの結果をまとめた論文を執筆中である。 これらの研究結果は、4つの学会(国際)および1つの学会(国内)においてポスターおよび口頭で発表された。
|