研究概要 |
G蛋白質共役型受容体(GPCR)やチャネルなど情報伝達に関わる膜タンパク質の構造研究を推進することによって、情報伝達の分子機構を構造の視点から理解することを目的として、研究を進めた。以下、研究課題ごとに簡単に報告する。 1.アクアポリン-4等の水チャネルの大量発現系を確立し、結晶化して、構造解析を行った。 水チャネル、アクアポリン-4(AQP4)の構造を解析するために、昆虫細胞Sf9を用いて大量発現・精製し、2次元結晶を作製した。しかし、この結晶はこれまで電子線結晶学が抱えていた深刻な問題を解決しなければ、構造解析は実現できなかった。新しい試料作製方法(J.Structural Biologyに掲載される)を開発することによって、3.2Å分解能で構造を解析することに成功した。この構造解析の結果は、発現系を用いて解析された哺乳動物由来の膜蛋白質では初めての例であり、脳における血流の制御や、温度、浸透圧やグルコースのセンサー等に深い関係があると考えられ、構造学的視点からこれらの機能を議論できる結果を得た。 2.アセチルコリン受容体の4Åより高い分解能での構造解析を実施して、原子モデルを作製した。 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のチューブ状結晶を極低温電子顕微鏡で撮影して、4Å分解能での解析に基づいて原子モデルを作製した。これらの結果に基づいて、nAChRのゲーティングモデルを提唱した。これはリガンド開閉型イオンチャネルのゲーティングの機構を解明した最初の例であり、この結果はNature誌に発表した(Nature,423,949-955(2003))。これらの成果をまとめて、DVDを作製した。 3.電圧感受性チャネルやIP_3受容体の単粒子解析を行い、チャネルの構造と機能を解析した。 極低温電子顕微鏡と単粒子解析法、さらには、粒子拾い上げプログラムの開発を行うことによって10万個の粒子を解析することが出来て、IP_3受容体の立体構造を15Å分解能で解析した。これは非常にコンフォメーション変化を起こしやすいIP_3受容体の、Ca^<2+>freeの条件における立体構造を解析したもので、全体構造の中にIP_3結合ドメインを当てはめることができた(J.Mol.Biol.,336,155-164(2004))。 本年を最終年度として、平成13年度から平成15年度までの3年間計画で進めた科学研究費特別推進研究は、本年度の成果をはじめとして、3年間の所期の研究目的と計画をおおむね達成することができた。
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