研究概要 |
転写制御機構を理解するためには、転写活性化ドメイン(AD)とその標的分子の間に成立する蛋白質間相互作用の実体を明らかにする必要がある。われわれはTFIIDサブユニットであるyTAF145/dTAF230のN末端にTBPと極めて強く結合し、その機能を阻害する活性領域(TAND)を同定し、TANDが役割分担の異なる二個の小サブドメイン(TAND1,TAND2)から構成されること、TAND1はADと多くの機能的な共通点を持つことなどを明らかにしてきた。またすでにIkuraらにより、ショウジョウバエ由来のdTAND1がTATAボックスの分子擬態を利用してTBPに結合していることも明らかにされている。 今年度は、出芽酵母細胞内においてdTANDを有するyTAF145蛋白質の発現を試みると、そのほとんどがTAND領域を欠失した形で発現するか、その原因の少なくとも一部はdTANDに含まれるコドンの使用頻度によることを見いだした。すなわちdTANDをN末端に有するyTAF145蛋白質の場合、翻訳開始点が通常の開始メチオニンよりも下流側へシフトしており、このシフトはコドンを出芽酵母において使用頻度の高いものへ変換することにより解消された。従ってdTANDを含むyTAF145蛋白質が全長で発現できない理由は、コードされるキメラ型TAF145の活性が細胞に対して何らかの悪影響を及ぼした結果というよりも、むしろリボソーム固有の一般的な性質によるものと考えられる。そこであらためてコドンを最適化したyTAF145変異体を用いて再検討を行ったところ、dTAND2にはyTAND2様の活性が確認されたが、dTAND1にはyTAND1としての活性は認められず、むしろ酵母の生育に対して阻害効果を示すことが明らかとなった。
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