1)細胞周期異常とHIV-LTR テトラサイクリン反応性プロモーターによる遺伝子発現系を用いて、VPRの機能を自由に調節できる細胞株MIT-23に、HIV-LTR EGFP遺伝子を導入し、HLEG-29を得た。HLEG-29は、DOX添加によるVPRの発現が誘導され、細胞周期異常と共に、2Nより4N/8Nの細胞集団でより高いEGFPの発現が認められた。VPRによりDNA量の増大した細胞集団にHIV-LTR活性を上昇させる因子が存在していることを示唆する。 2)VPRよるHIV-LTR活性を上昇させる因子の解明 上記MIT-23細胞のVPR発現細胞や、HeLa細胞及びJurkat細胞における発現誘導型プロモータによるVPR発現細胞においても、NF-kBの核内移行が認められた。VPR発現によるNF-kBによるLTR転写活性機構の存在が示唆される。 3)VPR発現に伴うNF-kBの核内移行のメカニズムの解明 VPRによって誘導される細胞周期異常として、M期の遅延やhyperploidyが認められる。VPR発現細胞で、サイクリンB1と結合すること、M期でのサイクリンB1の核内移行の遅延やmitosis promoting factor(MPF)活性の増大に加えて、I-kB alphaのリン酸化型蛋白の発現が見い出された。さらに、VPR発現細胞から調整したMPFがI-kB alphaのリン酸化を誘導することが確認された。以上のことより、VPRによって誘導されるNF-kBの核内移行は、MPF活性によるI-kB alphaのリン酸化が密接に関連していることが示唆された。 5)今後の課題 これまで、VPRの役割は細胞周期異常やアポトーシスを誘導することとして報告されてきたが、それら生物学的意義は明らかになっていなかった。細胞周期異常によるHIV-LTR転写機序は今回初めて明らかになった。今回得られた知見は、分子病態の理解にとどまらず、抗VPR因子探索の理論的基盤を提供すると考えられる。
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