研究概要 |
造血幹細胞の発生万能性を解析する目的で、GFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞をbusulfan処理した新生マウスに移植した。これらのマウスではすべての系統の血液細胞ばかりでなく肝臓、肺、腎臓、小腸、子宮の血管内皮細胞、平滑筋細胞、そして間質系細胞の一部がドナー由来に置き変っていた。このin vivo分化転換は、造血幹細胞が高度に濃縮されたCD45陽性の骨髄SP細胞(Hoechst33342を排出する活性をもつある分画)を移植した場合にも観察された。次に、造血幹細胞の前駆細胞である胎生期AGM領域細胞をレトロウイルスでマーキングして、そのin vivo発生運命を追跡したところ、血液細胞と小腸の微小血管細胞の両者が同一の幹細胞に由来することが判明した。したがって、特定組織に分布する非血球系の骨髄由来細胞は造血幹細胞の分化転換により生ずることが示唆された。妊娠時の子宮では骨髄由来細胞がステージにあわせて間質系細胞や血管内皮細胞へと分化転換する。そこで、この現象をin vitroで再現するために、SV40温度感受性T抗原を利用してマウス子宮ストロマ細胞株を新規に樹立した。骨髄造血幹細胞をこの子宮ストロマ細胞株とIL-3,IL-6,SCF存在下で共培養すると、分化した血球の産生と同時にCD45陰性の接着性細胞群がサイトカイン依存的に出現してきた。この分化転換活性はストロマ細胞培養上清に認められ、VEGFによるものではなかった。以上の結果は、骨髄造血幹細胞は組織再構築がおこっている場所から分泌される因子によって局所に動員されそこで分化転換することを示唆する。
|