研究概要 |
本研究計画は,紀元前1000年紀の前半を中心に編集された,古インドアーリヤ語最古の散文文献から適切な部分を選んで翻訳し,詳細で多面的な注記・文法の説明・語彙集と共に,日本語で発表することを目指すものである。既に先行する年度に原典テキスト・翻訳・注解を入力し終え,原稿の準備がほぼできていた約5篇に加え,この一年間には,パニ族が隠した牛の群を「解放」(実質は掠奪)する物語(リグヴェーダ以来「ヴァラ神話」として知られる)の作業を終え,更に,インドラが三頭の怪物ヴィシュヴァルーパを退治する話とソーマを巡るその後日諏を扱う複数の伝承を扱った。後者については難解な部分があって予想以上に手間取り,また,各派の伝承間の関係をどう解釈すべきかについて未解決な部分を残している。傍ら,広く諸文献を当たり,更に次年度に取り上げるべき材料について再点検を行った。できれば当時の実生活が反映されるような題材を取り入れたく,これまで明確に把握されてこなかった点の多い牛の放牧(とこれに伴う掠奪),植民活動,焼き畑等について,できるだけ良い箇所を選んで収録すべく計画している。また,死後の問題についての思弁を明確に示す題材も取り入れたい。これらについても,文献学的方法の全面的動員とその提示とに努める。発表としては,特に,先年度に扱った「プルーラヴァスとウルヴァシー」物語の新資料について,重要な改良を含む新ヴァージョンを日本語論文として提出した。原典の個々の個所についての理解が深まり,また,これらの文献を扱う若い仲間も増えてきたので,文法・語彙・内容等に亙る調査・研究も,当初考えた以上に範囲を広げる必要が出てきたが,できるだけ多くの成果を,計画完成後に目指している出版の中に組み入れたい。
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