研究概要 |
本年度は、まずシャーンティデーヴァ作と伝えられる『入菩薩行論』Bodhisattvacaryavataraの新旧両本と『学処集成』Siksasamuccayaとの関係をいくつかの観点から考察した。この問題については、昨年6月29日から7月1日の間に開催された第52回日本印度学仏教学会(於東京大学)にて口頭発表を行い、その成果を「Bodhi (sattva) caryavataraとSiksasamuccaya」『印度哲学仏教学』16,2001.10,pp.326-353と題する論文にまとめ、公刊した。この中で研究代表者は、『入菩薩行論』新旧両本および『学処集成』に関しては、敦煌本に伝承される初期本『入菩薩行論』(9章本・702.5偈)が先行し、後に『学処集成』が成立すると、後者を重んじる者の手により先の9章本が改編され、最終的に現行本の『入菩薩(菩提)行論』(10章本・913偈)が成立した、という3段階の経緯が推定されることを論じた。 次にまた、初期本の著者名アクシャヤマティと現行本の著者名シャーンティデーヴァの相違に関する考察を行った。アクシャヤマティの名に関しては、アティシャ等が残す伝承によれば、聖マンジュシュリー(文殊師利)より教えを受け、それをもとにナーランダーにおいて初めて詠唱されたテキストが初期本の『入菩薩行論』であり、アクシャヤマティとはそれを詠唱した学僧の名である。これに対して、シャーンティデーヴァの名は、『学処集成』および現行の『入菩薩(菩提)行論』の著者名として前者のチベット語訳、および後者のサンスクリット写本の一部およびチベット語訳の奥書に出る。これら2つの呼称の関係をめぐっては、本年3月13-15日に開催される国際学会(於ムンバイK.J.Somaiya仏教研究所・大谷大学共催)にて口頭発表を行った。
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