敦煌本『入菩薩行論』は、シャーンティデーヴァ(690-750頃)の主著『入菩薩(菩提)行論』の最初期の形態を伝承するもので、現在では、敦煌出土のチベット語文献の中にのみ-チベット語訳として-その存在が確認されている。 研究代表者は、この2年間、同論に関係して、シャンーティデーヴァとアクシャヤマティという著者名の相違とその背景に関する問題、シャーンティデーヴァによる別の著作である『学処集成』と同論の関係、ならびにアティシャの師であるスヴァルナドヴィーパのダルマパーラが集成した『入菩薩行論の要義』の検討を中心に研究を進めた。これらの研究成果は、いずれも個別の論文の形で公表し、また調整班(B02)がとりまとめる研究成果報告書には、2年間に及ぶ当該研究の主要な成果を収めた。 以上の研究を通して、以下の諸点を解明することができた。(1)シャーンティデーヴァは元来、『入菩薩行論」の初期本の著者として、アクシャヤマティの名でられ、後に『学処集成』の著者名であるシャーンティデーヴァと同一人物であるとして、後者の名が共通して用いられることになった。(2)両論の成立順序および年代は、初期本・9章立て『入菩薩行論』(8C前半頃)→『学処集成』(8C後半頃)→現行本・10章立て『入菩薩(菩提)行論』(9C頃)と推定される。(3)ダルマパーラが集成した『入菩薩行論の要義』は、本来『入菩薩行論の11主要義』が相応しく、また従来の研究では未解明であった11の主要義の内容は、アティシャ作の『入菩薩行論注釈』の検討を通して明らかとなった。
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