4年間にわたる科学研究費の支給によって、これまで日本古代の天皇制の構造、摂関政治と古典文化の位置付け、律令制を中心とする古代法制史などについての研究を進めてきたが、今年は、具体的に律令条文に即して、日唐律令の比較研究を行った。具体的には新しく発見された北宋天聖令の田令をふまえて、日本と唐の田令の比較を通じて、日本古代の王権と農業との関わりについて考え、後にまで続く水田一元史観が律令法に淵源があり、平安時代に強められたことを述べた。また戸令の計帳による戸口数把握と課役に示される人頭均額税について、中国の漢代までさかのぼって考えることにより、大まかに人数さえ把握できればよいという支配の段階に対応する税制であり、地方官の請負によって成立していたこと、それは日本と中国に共通する律令制の特色であることを示した。 調査としては、龍谷大学所蔵の大谷探検隊が西域より将来した大谷文書のうち、唐西州の退田文書、欠田文書、給田文書からなる均田制関係文書群について、副葬時に四神の青龍の形をなして8枚以上張りあわされていたことを解明し、多くの断簡接続を発見した。さらに佐川美術館で展覧された旅順博物館所蔵の断簡について調査し、大谷文書と張りあわされ青龍が描かれていたことを確認しただけでなく、中国の旅順まで渡って博物館の見学も行った。大谷文書の整理に大きな貢献をしただけでなく、唐律令制の土地・民衆支配が解明され、日本の田令の特質も明らかになるであろう。
|