研究概要 |
本研究の主たる目的は,、神学書・法学書を中心としたイスラーム古典の渉猟・読解によって,イスラームにおける死生観と生命倫理とを文献学的に明らかにすること,またその過程で,イスラームの死生観・生命倫理に関わる古典テキスト群のデータベース化を果たすことにある。本年度はまず,この後者の目的を実現する第一段階として,広くイスラームの死生観・生命倫理を扱った既往の研究,とりわけ欧米諸語で書かれた図書や論文を網羅的にデータベース化した。加えて東京大学文学部イスラム学研究室,同東洋文化研究所,財団法人東洋文庫等の所蔵するイスラーム法学書・神学書,およびその研究文献を参照し,特に現代エジプトのムスリム思想家たちが生命倫理を論ずるにあたって依拠している基本文献の校訂・出版状況を調査している。同時に,エジプト,トルコ,ギリシャの三国においてイスラーム古典資料の収集と現地調査を行い,収集できた資料の読解を進めた。エジプトではさらに,生命倫理をめぐる過去10年間の論争記録を入手・調査することにも成功している。この結果,年度後半には,イスラームの死生観・生命倫理に関わる古典神学書・法学書の中から,ガザーリーの著した『宗教諸学の再興』を選択し,本文の一部邦訳を始めるに至った。一方,本研究を効果的に遂行するためには,イスラーム以外の文明圏における死生観・生命倫理を研究する研究者との共同研究も,議論の枠組みを構築していくうえで不可欠と考えられることから,「古典学の再構築」A04班が開催している共同研究会(魂に関する比較研究)に積極的に参加し,中国,インド,古代ギリシャ思想の専門家からそれぞれ得難い情報と知見を得ている。
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