ギリシア・ローマ文学を対象として、古代における神託と占いの在り方と変遷について次の点にわたって考察した。 1.ホメロスの叙事詩、アイスキュロス・ソポクレス、エウリピデスの悲劇、およびアリストパネスの喜劇の中で、神託・占いに関わるエピソードや叙述を抽出し、それらの文脈を考慮しながら内容を分析した。とくに憑依占いについてはデルポィのアポロン神託に関するエピソードやモチーフが多く、またアリストパネスの『福の神』ではアスクレピオスの夢療法が重要であり、それらに関連したギリシア宗教の研究書・論文を収集するとともに、2001年4月に行なったデルポイおよびエピダウロスでの現地調査で収集した図像および文字資料の整理と検討を行なった。 2.アポロンの憑依占いの文学的典型であるカッサンドラの神懸りの予言について、アイスキュロスとセネカの『アガメムノン』をテクストに即して比較し、とくにローマ的直観的占いの特徴を検討した。 3.ウェルギリウスの叙事詩やリウィウスの歴史書において重要な古代エトルリア独特の腸占いについて、イタリアの地方の遺跡・考古学博物館とローマのエトルリア博物館において現地調査し、研究資料を収集した。そうした資料の蓄積は、今後整理して古典文献の考察に役立てるつもりである。 4.ホメロスとウェルギリウスの叙事詩に表われたギリシア人とローマ人の運命観・自由観を比較研究し、論文を公刊した。 5.神託文学の代表的作品ソポクレスの悲劇『オイディプス王』に関して、神託と『宿命の子』の民話との関係を考察し、日本独文学会のシンポジウムなどで発表した。
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