主にラテン文学を対象として、古代ローマにおける神託・占いの継承と変容を考察した. (1)主要な古典作品は、共和政期のプラウトゥスの喜劇、リウィウスの建国史、キケロの宗教論(とくに『卜占論』)、ウェルギリウスの叙情詩、帝政期のセネカの悲劇とルカヌスの叙事詩。基礎資料として、エトルリアを含む古代イタリアの宗教史的諸研究、上記の各古典作品の注釈、コンコルダンスおよび各作品の個別研究を集め、さらに古典ラテン語のテクスト(電子媒体による)を整備した。 (2)ローマ人の神託に関して最も重視すべき点は、彼らが神託のみならずあらゆる予兆を神の意思の表われとして尊重し、公私においてきわめて積極的に利用したことである.ローマ建国にまつわる諸伝説や共和政時代の歴史伝承は、そのことを示す多くの事例を提供している.しかし、ギリシア起源の神託(例えばクマエの巫女のような憑依占いやインクバチオのような夢占いなど)とエトルリア起源の腸占いに対して、ローマ人は一定の制限を設けた.それは、ローマ人のより相互的で柔軟な神と人間の関係に起因すると考えられる。とするなら、おそらく神託・占いを扱った上記の古典作品においても、そうしたギリシア人とは異なる宗教観・世界観を探ることができるものと予想される.この年度の研究では、そうした展望のもとに諸作品を検討し、神託・占いの継承と変容の意味を考察した。 (3)なお前年度に引き続き、現代の諸民族における神託・占いとの比較研究のため、国立民族学博物館などにおいて資料調査した。また、地中海周辺(および比較研究のためアジア)の神託関係の遺跡・博物館・研究所を訪ね、神託・占いの人的・自然的環境と施設を現地調査した。
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