10世紀から13世紀にかけての東アジア史とは、遼(契丹)の成立と唐朝の崩壊よりモンゴル帝国(元)が女真(金)・南宋政権を滅ぼすまでの時期、すなわち、おおよそ前半期には遼と北宋とが、そして後半期には金と南宋とが並立した時期を指す。この時代の歴史を知るための基本史料は、元代に中国歴代王朝の伝統にのっとって編纂された正史『遼史』『金史』『宋史』である。本研究では10〜13世紀の東アジア史を明らかにするべく、その基本史料であるこの三つの正史に関わる研究を行った。 まず、元代における三史編纂過程に関する研究である。元代における正史の編纂は正統問題によって遅延したというのが通説であるが、実際には政権の歴史編纂の方針は遼・金・宋の三つの正史を公平に立てるという編纂で一貫していた。本研究では一二三四年に脩端という人物によって書かれた「辯遼宋金正統」という文献を取りあげて訳注・研究を行った論文を発表し、その事実をあとづけた。 次に、金代の歴史『金史』の内容に関する研究に着手した。現在のところ、巻一「世紀」という金国建国以前の歴史を記した部分に関する政治史的分析を進めつつある。 元代の正史編纂に関する研究を進めるにあたっては、背景となる元代の出版や文化政策の知識が必要となる。その一例として、元代に出版された禅籍『勅修百丈清規』という書物について、政治史・文化史の側面からの研究を同時進行した。この研究は、日本・中国・韓国の国境を超えた出版文化史の解明を目指して組織され、研究代表者もその一員として参加した領域横断的共同研究班「日中韓版本研究会」における研究の一環として行われた。研究代表者はこの研究組織参加メンバーを中心に進められた平成十四年度京都大学附属図書館展示会「学びの世界-中国文化と日本-」の企画・展示にたずさわり、京都大学附属図書館に所蔵される貴重な漢籍の紹介を行った。
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